透明な固体物質。それは「純粋」の証でもあります。
純粋なだけに、その潜在パワーも非常に強いものがあります。ここでは、その一端を見てみましょう。
透明な石の代表選手と言えば、水晶。
ちなみに、水晶というのは学名ではなく一般名で、石英の結晶形がはっきりと分かる無色透明な石英のことをいいます。
水晶の成分は純粋な二酸化ケイ素(SiO2)で、酸素とケイ素の最も基本的な化合物ですが、地殻(地上の岩石)中に存在している鉱物成分の半分以上は、この二酸化ケイ素ですので、その結晶体である水晶は、地上の王者とも言えますね。
参考までに、地殻中にある元素の約半分は酸素で、1/4はケイ素ですので、地上では圧倒的な存在なのです。
地殻中の成分 [%] SiO2(二酸化ケイ素) 55.2 Al2O3(酸化アルミニウム) 15.3 CaO(酸化カルシウム) 8.8 FeO(酸化鉄)
Fe2O38.6 MgO(酸化マグネシウム) 5.2
水晶は、二酸化ケイ素の「単結晶」です。「単結晶」というのは、字の如く、「一つの結晶」という意味で、水晶自体は大きな一つの結晶体なのです。地上でこれだけ大きな結晶が自然に出来るというのも特徴ですね。なお、結晶というのは、ミクロの世界である「原子の並びの形」が、マクロな世界にまで拡大してできたもので、肉眼で「原子の並び」が分かるという、非常に大きな特徴があります。こういうのって、ミクロコスモスとマクロコスモスの対応にも通じるものがありますね。
さて、水晶という名前は、「水の結晶」という意味ですが、もちろん「水の結晶」ではなく、「二酸化ケイ素の結晶」です。英語では、「Rock crystal」と呼ばれますが、これは「岩の結晶」という意味です。こちらの表現の方が、意味としては、より正確ですね。
ちなみに「クリスタル(crystal)」というのは「結晶」を意味する言葉ですが、産業分野、特に電子機器分野では、水晶のことを単に「クリスタル」と呼ぶことが多く、「結晶=水晶」であることが多くあります。ポピュラー度から見ても当然ですね。
水晶はポピュラーであることから、昔から色々と利用されてきましたし、今でも欠かせない物質です。透明で硬く、電気的にも有用ですので、家庭用でも産業用としても、本当に色々なものに使われています。有名なのは「水晶振動子」というもので、これは極めて正確な振動を起こすもので、様々な電子機器、通信機器に使われています。パソコンやテレビの内部にも複数個ありますし、時計や携帯電話にも入っています。現代文明の基礎を支える物質として、なくてはならない存在なんですよね。
ただし、自然に産出する水晶は、様々な不純物が含まれている上、上質な結晶が少なく品質もそれほど安定しないので、今では工場で作られる高純度の人工水晶が大量生産されて我々の文明を支えており、天然水晶はもっぱらアクセサリー用として使われています。
有用なものがあれば、そのニセモノが出てくるのは宿命ですね。
その代表選手は、おなじみの「ガラス」です。これは歴史も古く、人工的に作る技術も発達しているので、単に透明であるという性質では、今や水晶を完全に圧倒しています。現代における究極の透明物質は「光ファイバ」ですが、これもガラスです。
とにもかくにも、ガラスは非常に有用な物質です。現代の光工学を支えている最大の立役者は間違いなくガラスですし、様々な透明容器としての使い道もあります。家庭内でもガラス容器は健闘していますよね。
水晶とガラスの違いは、「単結晶」か「非結晶」かということです。
結晶の場合、「複屈折」という現象を示すものがあり、水晶とガラスを見分けるには、これを使うのが一般的です。
複屈折を調べるには、偏光というものを使います。偏光を結晶に当て、透過した光の偏光状態を観測するのです。
具体的にどうするかということを、簡単に教えましょう。
まずは、簡単に得られる偏光として、ノートパソコンなどに使われている液晶ディスプレィを使います。白い画面にして、画面から少し間隔(10cmくらい)をおいて水晶玉もしくはガラス玉をおき、透過してきた光を、カメラ屋さんなどで売っている普通の偏光フィルタ(円偏光でないものが良い)を通して観察します。
水晶玉の方向と偏光フィルタの角度を調整すると、水晶玉の場合は、虹色のリングが観測されますが、ガラス玉の場合は、そのようなリングは観測されないんですよね。
もちろん、水晶玉でなくても透明な水晶であれば、虹色のリングが観測できます。
水晶玉だと、十文字と円形の多重色の円環が観測できます。 |
パソコン画面を白一色にするために、「メモ帳」のプログラムを起動しています。 |
あと、一般的には水晶の方が熱伝導が良いので、少し冷たい感じがするのと、少しだけ硬いので、大きな玉だと熟練した人は感触だけで見分けることもできます。(重さは、あまりアテにならないので注意。)
普通に水晶といえば無色透明なものを指し、他と区別したい時は「白水晶」といも言います。
色のついた水晶は、紅水晶(紅石英、ローズクォーツ)、黄水晶(シトリン)、煙水晶(スモーキー・クォーツ)、紫水晶(アメシスト)などがあり、水晶の結晶中にルチルやトルマリンの針状結晶が入っているものは針入り水晶、スター効果が現れるものはスター水晶と呼ばれて、装飾用としては人気が高いです。
ですが、これらは産業用の利用価値はほとんどありません。不純物があると水晶としての利用価値は無いということですね。
自然に産出する透明な結晶は、水晶以外にも多くあります。二酸化ケイ素の次に多い物質であるAl2O3の結晶が「サファイア(コランダム)」で、現代においても、その硬さと熱に対する強さを武器に、色々なものに使われています。
Al2O3の結晶のうち、赤色の濃いものを特別に「ルビー」といい、それ以外のものを「サファイア」といいます。
ブルー・サファィア
サファイアは、無色・青・赤・緑・紫・黄・褐色などがありますが、普通に「サファイア」という場合には,最も多いブルー・サファイア(青玉)を指し、ダイヤモンドに次ぐ硬度があり、色の美しいものは希少性も高いので、けっこう高価な石です。この青い色は,鉄分とチタン分の含有によるものです。
また非常に細いルチル(TiO2)の針状結晶を含有することによって,アステリズム(星彩効果)の出るものをスター・サファイアといいますが、スタールビーなんかは、かなり高価なようですね。
サファイアは化学的に安定で、非常に硬くて磨耗しにくいので、昔ではレコード針や機械時計の軸受部の「石」、現代でも時計の窓部分(サファイア窓)などに使われていますし、粉末にして研磨剤(紙やすりなど)にも使われています。
また、高温にも強いので炉の内部を見るための透明窓などに使われています。
また、結晶として安定なので、様々な不純物を含ませて特殊な光学的特性を持たせたものも合成されています。有名なものは、クロムイオン(Cr3+)を含ませたルビーレーザ、特殊用途としてはチタンイオン(Ti3+)を含ませたチタン・サファイアレーザというものがあります。
あと、最先端の半導体に使われる基板(SOS:シリコン オン サファイア)としても使われるようになっていますので、結構守備範囲の広い物質なのでした。
古代ギリシア・ローマ人がサファイアと呼んでいたのは、じつは現代のサファイアではなく、ラピスラズリであったようです。
サファイアは産業的価値があるために、工業的合成が広く行われており、他にも装飾用途としてのスター・サファイアなんかも合成されています。合成の簡単な石ですし、天然の質の悪い石を熱処理したりするのも簡単なので、結構怪しいものが出回ることも多いのでした。
ダイアモンドの成分が純粋な炭素(C)というのは、有名な話ですね。そのおかげで、高熱には弱く、簡単に燃えてしまうという欠点があるのでした。(ちと怖い)
さてさて、ダイアモンドは、産業(実用)上では、透明性をあまり要求されることはありません。
なぜかというと、ダイアモンドの応用は、光学特性上の利用ではなく、「金剛石」の名にふさわしい「硬さ」がメインになるからです。地上で得られる物質の中で最も硬く、その硬さもハンパじゃないということで、色々な加工用の工具などに使われています。
結局のところ、透明なダイアモンドは宝飾用、透明でないものは産業用、ということで、地下から掘られたダイアモンドは余すことなく社会の上辺でも底辺でも働いているのでした。
近年は、ダイアモンドを膜状に合成する技術も開発されています。ただし、その多くは、完全なダイアモンド結晶膜ではなく不完全なダイアモンド膜でDLC(Diamond Like Carbon、擬似ダイアモンド状炭素)と呼ばれるものですが、この膜を基材に付けることにより、強靭で耐磨耗性に優れた表面を得ることができるため、一部で使われています。
ダイアモンドに欠かせない性質として、熱に対する特徴もあります。どういうわけか、おそろしく熱を伝える能力が高いんですよね。金属と比べても、比較にならないほど能力が高いため、かなり特殊な分野でこっそりと使われています。でも、この特徴を知っていると、ダイアモンドとガラス玉を、割と簡単に見分けることができるんですよね。(ダイアモンドは、金属以上に冷たい感じがするのです。)
物質の熱伝導率 [W/m・K] C(ダイアモンド) 900〜2000 Ag(銀) 420 Cu(銅) 400 Al(アルミニウム) 240 SiO2(水晶) 9
それと、化学の周期律表を知っている人は分かると思いますが、ダイアモンドの成分である炭素は、4B族元素であり、半導体であるシリコンやゲルマニウムと同じです。ということは、炭素の結晶体であるダイアモンドも、潜在的に半導体の性質を持っています。その性質を生かして、特殊な用途で一部実用化されています。
そういうことで、表舞台に出ているダイアモンドは、ほんの一握り。後は、ほとんど社会の底辺で働いているのでした。
でも、決して他の物質には真似のできない性質を持つというのは、本当にすばらしいことですね。
蛍石(フローライト)の成分は、フッ化カルシウム(CaF2)で、産業的にはフッ素を含む重要な鉱物です。割と綺麗な立方体や八面体の結晶となるうえ、純粋なものは無色ですが、不純物を含むと赤・黄・緑・紫・灰・青・褐色などになるため、鉱物コレクターにも人気のある石です。
この石は、フッ素化合物の原料としてや、高温でも熔けにくい物質を熔かすための「融剤」として使われます。また、特殊な光学特性を持っているので、合成したものがレンズやプリズムとしても使われることがあり、陰で利用される石なのでした。
方解石(カルサイト)の成分は、炭酸カルシウム(CaCO3)で、マッチ箱を潰したような平行六面体の結晶となります。純粋なものは無色透明あるいは白色ですが、不純物があると赤・緑・青・黄・灰・褐・黒色などになります。
この石は、複屈折性(光の偏光方向による屈折率の違い)が非常に大きいので、透明な方解石を通して文字などを見ると二重に見えます。この性質を使って、偏光を分離するプリズム(ニコルプリズム)の材料として使われますが、元々柔らかい材質なのと、化学的にも酸やアルカリに弱いので、注意が必要ですね。
石灰岩や大理石は方解石の粒子からなり、石灰やセメントの主要な原料として、または製鉄用融剤としても使用されます。また、大理石は建築物や彫刻の石材としても広く利用されています。
なお、生物が作り出す炭酸カルシウムの結晶には、方解石タイプのものと霰石(あられいし、aragonite)タイプのものがあり、どちらも成分は炭酸カルシウムなのですが、結晶形が違うので鉱物名としては区別されます。
霰石は、貝殻や真珠の成分ですが、長い年月が経つと、方解石に変化していきます。