ライダーウェイト・タロット解説

CLASS II
§3 THE FOUR SUITS
Otherwise, Lesser Arcana
4種のスーツ
もしくは小アルカナ


 この前にある大アルカナの章と比べれば、ここは明らかに手抜きすぎる章です。
 ウェイト版タロットは、小アルカナを意味のある絵にしたことで、占い分野では大変に人気が高いのですが、当のウェイト氏は、小アルカナにはあまり興味は無く、大アルカナの方だけに高い関心があったということですかね。
 しかも、ウェイト氏が力説している大アルカナの魅力は、ほとんど一般にはその本当の意味を知られることはなく、おまけで作ったような小アルカナの方が賞賛され、売れているのが現状です。

 ウェイトさん、かわいそうです。(笑)

 ちなみに、ある特定のコートカードとか、エースのカードには、ウェイト氏は例外的に神秘主義的なイメージも取り込んでいます。
 お気に入りのカードというのがあるんですかね。

The resources of interpretation have been lavished, if not exhausted, on the twenty-two Trumps Major, the symbolism of which is unquestionable.
22枚の大アルカナに関しては、もしネタ切れになっていなければ、解釈の資源は惜しみなく出しており、それらの象徴性は疑う余地は無い。

 ウェイト氏は、大アルカナの従来解釈のネタ披露については、もう充分であると判断しているみたいです。
 まあ、まだまだ叩けば色々とネタを披露してくれるとは思いますが、本番はここ(PartT)ではなく、次(PartU)ですからね。
 紙面の都合もあるので、とりあえず自重しているのでしょう。

There remain the four suits, being Wands or Sceptres--ex hypothesi, in the archaeology of the subject, the antecedents of Diamonds in modern cards:
4つのスートが残っている。棒あるいは笏であるものは、主題(タロット)の考古学における"仮説"によれば、現代の(トランプ)カードのダイヤモンドの祖先である。

 ウェイト氏、いきなりタロットの棒=トランプのダイヤモンド説という変化球から入りましたね。
 この仮説は、ウェイト氏のオリジナルではなく、ジェブラン氏の『原始の世界』にある、共同執筆者の占い師が書いた以下の対応がネタになっています。

ジェブラン説(1781年)
タロット

トランプ

Cups Hearts
Coins (Pentacles) Clubs
Swords Spades

Batons (Wands)

Diamonds

 ダイヤモンド=火=棒、クラブ=地=五芒貨という組み合わせは、魔術的には、悪くはない考えですね。

 ちなみに、トランプのスートの絵柄は時代や地域により様々ですが、現在よく使われているクラブ、ハート、スペード、ダイヤの組みは、1480年頃にフランスで考案されたものらしいです。これは現存する最古のタロットであるヴィスコンティ・スフォルツァ版が1460年頃なので、ほぼ同じ時代ですね。

Cups, corresponding to Hearts; Swords, which answer to Clubs, as the weapon of chivalry is in relation to the peasant's quarter-staff or the Alsatian bludgeon; and, finally, Pentacles--called also Deniers and Money--which are the prototypes of Spades.
杯は、ハートに対応する。剣は、騎士たちの武器が小作農民の棍棒もしくはアルザスの棍棒に関連しているので、クラブに対応する。そして最後に、五芒貨…ドゥニエ貨とも貨幣とも呼ばれる…は、スペードの原型である。

 「quarter-staff/棍棒(こんぼう)」というのは、単なる硬い木の棒ですが、これでも一応は武器であり、高価な鉄製の武器を買えない貧乏な小作農が使っていました。
 「Alsatian bludgeon/アルザスの棍棒」は良くわかりませんが、アルザス地方の祭りで棍棒が祭具に使われているようなので、それのことなのかもしれません。
 「Denier/ドゥニエ貨」は、8〜18世紀のフランスで用いられていた銀貨で、現在では100円玉みたいな感じですかね。
 それにしても、タロットの剣=武器=農民の棍棒=トランプのクラブというのは、かなり苦しい感じがします。
 あと、タロットの五芒貨=地=農地を耕す=トランプのスペード(シャベル)という感じの対応ですかね。
 まあ、他人と同じではなく、あくまでも「強引なオリジナル」にこだわる人ですからね。(笑)

 とりあえず、タロットとトランプの対応を表にまとめると、こうなります。

ウェイト説(1910年)
タロット

トランプ

Wands or Sceptres

Diamonds

Cups

Hearts

Swords

Clubs

Pentacles, Deniers, Money

Spades

 ついでに、パピュス氏の『ボヘミアンのタロット』では、以下の対応となっています。
 この対応は外見的に普通に受け入れられる(=見たままで、素人にはわかりやすい)レベルのものですので、現在では一般的に使われている対応付けとなっています。

パピュス説(1889年)
タロット

トランプ

wands or scepters

clubs

cups or goblets

hearts

swords

spades

money or pentacles

diamonds

 なお、トランプのスートは、中世ヨーロッパの階級にそれぞれ対応し、スペード(剣)は貴族・騎士、ハート(聖杯)は聖職者、ダイヤモンド(貨幣)は商人、そしてクラブ(棍棒)は農民を表すという説があります。
 一方、タロットの小アルカナは、棒が火、杯が水、剣が空気、五芒貨は地に対応します。
 これらの関係付けをどう見るかというところでは、色々な意見がありそうです。

In the old as in the new suits, there are ten numbered cards, but in the Tarot there are four Court Cards allocated to each suit, or a Knight in addition to King, Queen and Knave.
新しい(トランプの)スートにあるように、古い(タロット)ものに、10枚の番号付きのカードがあるが、タロットでは、各スートに割り当てられた、4枚のコート(宮廷)カード、すなわちキング、クイーン、ジャックに加えて騎士がある。

 ウェイト氏は、タロットの方が時代的に古く、トランプカードの方が新しいという考えのようです。
 現在では、トランプカードの方が時代的には古いというのが定説となっています。

The Knave is a page, valet, or damoiseau; most correctly, he is an esquire, presumably in the service of the Knight; but there are certain rare sets in which the page becomes a maid of honour, thus pairing the sexes in the tetrad of the court cards.
ジャックは、騎士見習、従者、あるいは少年である。 最も正確に言うと、おそらく彼は、騎士に雇われている騎士志願者である。しかし、騎士見習が女官になっていて、それゆえにコートカードの四つ組において性が組になるという、珍しい(タロットカードの)セットがある。

 「damoiseau/少年」は、古いフランス語であり、身分の高い少年・少女を表すこともあります。
 「maid of honour/女官」は、「未婚の、花嫁付添人(bridesmaid)の長」とか「女王付きの侍女」という意味です。

 ちなみに、コートカードか男女の2組になっているのは、ゴールデン・ドーンのタロットとか、クロウリーのトート・タロットがあり、現代では普通に見かけますが、昔は割と少なかったみたいです。
 カーリー・エール・ビスコンティ版なんかは、男女ペアになっていましたけど、これはかなり特殊な例ですね。 

There are naturally distinctive features in respect of the several pictures, by which I mean that the King of Wands is not exactly the same personage as the King of Cups, even after allowance has been made for the different emblems that they bear; but the symbolism resides in their rank and in the suit to which they belong.
いくつかの絵に関しては、当然ながら顕著な特徴があり、棒の王は杯の王と正確には同じ人物ではないと私が言うことに関しては、彼らが持つ異なった紋章(スート)が原因となるものを許容した後でさえもである。 しかしながら、象徴は、それらの階級とそれらが属するスートにある。

 「several pictures/いくつかの絵」というのは、おそらく過去に発行されているタロットカードのコートカードのことを指しています。
 コートカードは、王・女王・騎士・騎士見習の階級と、スートが持つ意味との組み合わせで構成されますが、カードによっては、独自の色付けが成されているということですね。
 ただし、独自色とはいえ、あくまでもコートカードという小アルカナの領域内での話であり、大アルカナとは次元が違いますけどね。

So also the smaller cards, which--until now--have never been issued pictorially in these our modern days, depend on the particular meaning attaching to their numbers in connexion with the particular suit.
ところでまた、より小さなカードは、この我々の現代において…今までは…、特定のスートに関連付けられたそれらの番号に付随する特別な意味に依存する絵入りでは、いまだかつて発行されたことは無い。

 「the smaller cards/より小さなカード」というのは、各スートのA〜9の数札を指します。
 それにしても、ウェイト氏は、いい思いつきをしましたよね。
 数札のデザインを、今までのトランプのような単純に数を示すものから、説明絵付きに変えたのは、大きな変化でした。
 これは、ウェイト版を世界的な大ヒットとした要因の一つですよね。

 ちなみに、過去に数札が絵札のものは、ソラ・ブスカ(Sola Busca)版という手書きのタロットが、1491年頃に作られています。
 ただし、印刷されて量産されたものでは、このライダーウェイト版が最初と言っていいですかね。

I reserve, therefore, the details of the Lesser Arcana, till I come to speak in the second part of the rectified and perfected Tarot which accompanies this work.
それゆえ、私は小アルカナの詳細については、この仕事に伴って、修正され完全なものにされたタロットの第2部での話になるまで、留保しておく。

 ウェイト氏は、小アルカナに関する細かい話(つまんない些細なこと)は後回しにして、まずは先に大アルカナの話をしたいようです。
 この大アルカナの説明のある第2部(PartU)は、ウェイト氏はかなりの思い入れがあるんですが、残念ながら、一般の人には、ほとんど理解されていないのが現状なんですよね。

The consensus of divinatory meanings attached both to the greater and lesser symbols belongs to the third part.
大アルカナと小アルカナの両方に付随する占いの意味の集約された意見は、第3部にある。

 「consensus/コンセンサス、集約された意見」というのは、ウェイト氏の考えた占いの意味ということではなくて、当時の占い師連中が好き勝手に解釈していたものを集約して、何となく使えそうなものを集めてみた、という感じですかね。
 ちなみに、小アルカナは、このPartVにあるコンセンサスを利用して作図されたみたいですが、大アルカナはウェイト氏のオリジナルデザインですので、このPartVにあるコンセンサス、つまり大アルカナの占いの意味は全く使い物になりません。
 くれぐれも、ご注意ください。


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