ライダーウェイト・タロット解説

0 ZERO The Fool / 愚者



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 さて、タロットで最大級の謎を持つ「0:愚者」のカードです。
 このカードは、トランプで最強かつ万能の切り札であるジョーカー(Joker)に相当しており、22枚の大アルカナにおいても、その解釈の難しさから、別格の存在となっています。

With light step, as if earth and its trammels had little power to restrain him, a young man in gorgeous vestments pauses at the brink of a precipice among the great heights of the world; he surveys the blue distance before him-its expanse of sky rather than the prospect below.
まるで地球とその束縛が彼を拘束する力をほとんど持たないかのような、軽い足取りで、豪華な衣装の若者は、世界の中でも非常に高い中にある絶壁の縁で止っている。 彼は、彼の前にあり、下方の視野よりも、空に広がっている、青い(空の)距離について調査する。

 一見して、ウェイト氏は、従来のマルセイユ版の貧乏くさい「0:愚者」とはかなり異なるデザインを採用しています。
 この人物は、身分の高い者のようであり、下を見るのではなく前方上を向いています。
 そして、この崖から飛び降りる直前の時点で、一旦立ち止まっています。
 盲目的に目の前の崖を飛び降りるということではないわけで、先の見えない無謀な考えの持ち主ということではありません。

 背景の非常に高い山々は、この「0:愚者」のカードが、オカルト的に高い位置にあるということを示しています。
 そして、高所から降りてくるという暗示は、上位世界からの力の流出を意味するものと思われます。

His act of eager walking is still indicated, though he is stationary at the given moment; his dog is still bounding.
彼の歩きたそうにしている演技は、まだ示されてはいるが、彼はこの特定の瞬間には静止している。彼の犬はまだ飛び跳ねている。

 立ち止まっている人と、飛び跳ねている犬は、何とも奇妙な対比であり、ここも難しい暗示となっています。
 この犬の存在については、本文中には説明がないので推量になるのですが、崖から落ちることを警告しているということよりは、「歩く、飛ぶ、動く」という潜在力を示しているものと解釈する方がすっきりします。
 止まっているのに動いている、という二重性みたいなものですかね。

The edge which opens on the depth has no terror; it is as if angels were waiting to uphold him, if it came about that he leaped from the height.
深みのある断崖は、恐怖を全く持っていない。 それはまるで、彼が高地から跳躍したことが生じたとしても、天使が彼を持ち上げるために待機しているかのようである。

 天使が全面的にバックアップしてくれるので、彼がどんな事態になっても、何も心配は無いということですね。
 つまり、この時点では、全ては神の力でコントロールされているという状態であり、この若者は神の力の分身であり、それゆえ天使が保護していると見なすこともできます。

His countenance is full of intelligence and expectant dream.
彼の表情は、知性と期待の夢で満ちている。

 この若者は、潜在的な能力と知性があり、未来への希望にあふれているということですね。
 まあ、神の力の流出であれば、そういうことになりますね。

He has a rose in one hand and in the other a costly wand, from which depends over his right shoulder a wallet curiously embroidered.
彼は一方の手に薔薇を、もう一方には高価な棒を持つ。それは彼の右肩の上にかけられ、その先には精巧な刺繍が施されたカバンがある。

 左手には神聖と純潔を表す白い薔薇、右手には豪華な棒(ワンド)を持つ「愚者」のシンボルは、「1:魔術師」と似たところがあります。
 相似点は、他にもあります。
 ・頭上の神秘的シンボル − 白い太陽と∞マーク
 ・頭の輪 − 月桂冠と白いヘッドバンド
 ・白いシャツ
 ・立派な上着 − 豪華な柄のチュニックと赤いマント
 ・腰のベルト

 「0:愚者」と「1:魔術師」は、ゴールデン・ドーンでは、どちらも生命の木の「1:ケテル(王冠)」に繋がるパスに配属されますので、王冠に関連性のあるシンボルが採用されているようです。
 ちなみに、高等女司祭も「1:ケテル」に繋がるパスに配属されていますので、かなり豪華な作りですね。
 「0:愚者」を生み出した神は、この下位世界に資源を供給するパトロンであり、別格のお金持ちであるということですよね。

He is a prince of the other world on his travels through this one-all amidst the morning glory, in the keen air.
彼は、鋭い空気の中にいて、朝の栄光(朝顔)の中で、この1つから全部を通る旅行中の、他の世界の王子である。

 ちとややこしい文章ですが・・・
 「in the keen air/鋭い空気中で」というのは、この高くて夜明けを迎えたばかりの場所が、強力な神の光と気にあふれているということを意味していると思われます。
 「morning glory/朝の栄光/朝顔」というのは、おそらく『旧約聖書:創世記』の第1章の天地創造の部分を暗示していると思われます。
 また、彼の服には、9個の朝顔の花が描かれていて、この花の形は「Spirit/霊」のシンボルとなっています。


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 この神の「Spirit/霊」の働きにより、四大元素で構成される天地が創造されたんですよね。
 そして、この彼は「other world/他の世界」の存在である神の「prince/王子」、つまり「神の霊」の分身であり「神の子」であると考えることができます。
 そして、輝く太陽で象徴される最初の「1:ケテル(王冠)」を出発した彼は、残り9つの朝顔の花で示される生命の木のセフィロトを旅するということを示しています。
 これは、「Fool's journey/愚者の旅」と呼ばれており、大アルカナの魔術的な基本シナリオとされています。

The sun, which shines behind him, knows whence he came, whither he is going, and how he will return by another path after many days.
彼の後ろで輝いている太陽は、彼がどこから来て、いずこへと行こうとしているのか、そして多くの日々の後に別の経路を通ってどのようにして戻るかを知っている。

 若者の右上にある太陽は、白く輝く神の光で示される、生命の木の「1:ケテル(王冠、Kether)」の象徴として描かれています。
 そして、ここでは、まさに神そのものを象徴する存在となっているようです。

 ゴールデン・ドーンのシステムでは、愚者は「1:ケテル」と「2:コクマー」とのパスに割り当てられており、大アルカナの最初の位置に出現します。
 ウェイト氏は、PartU§3に書いているように、あえて従来の順序で愚者の位置を割り当ててはいますが、カードのデザインは明らかにゴールデン・ドーンのものを踏襲していますので、ミステリーアートでは、「0:愚者」のカードを大アルカナの最初に来るように配置しています。
 その方が、しっくり来るんですよね。

He is the spirit in search of experience.
彼は経験を探し求める霊である。

 神は自ら経験したくて、自分に似せて分身を実体化したということですね。
 ここは、『旧約聖書:創世記』1:27の「神は御自分にかたどって人を創造された。神にかたどって創造された。男と女に創造された。」の部分が連想されます。

Many symbols of the Instituted Mysteries are summarized in this card, which reverses, under high warrants, all the confusions that have preceded it.
神秘主義団体の多くの象徴がこのカードに要約されており、高い根拠の下で、先立っていたすべての混乱を転換させる。

 神秘主義団体においては、部外者に秘密が漏れるのを防止するために、わざと意味を逆転させて混乱させていることがあります。
 もしくは、単なる誤解や偏見に基づいて、意味を反対に理解しているものもあります。
 ウェイト氏は、自分の理解が高いレベルに到達したと主張し、「0:愚者」の意味とデザインを「最高の賢者=神の分身」という、今までとは正反対のものに置き換えました。
 遊び人の金さんが、実はお奉行様であったとか、あるゲームでも、遊び人が転職すると賢者になったりということですかね。

In his Manual of Cartomancy, Grand Orient has a curious suggestion of the office of Mystic Fool, as apart of his process in higher divination; but it might call for more than ordinary gifts to put it into operation.
グランド・オリエントは、彼の「占いの手引き書」の中で、より高い占いにおける彼の手順とは別に、神秘的な「愚者」の任務について興味深い提案を行っている。 しかし、それを実施するためには、普通の才能以上のものを要求されるかもしれない。

 グランド・オリエントは、ウェイト氏のペンネームであり、『占いの手引き書/Manual of Cartomancy』は現代においても割と有名な本です。
 「his process in higher divination/より高い占いにおける彼の過程」なんちゃらは、自慢もしくは占い本を売るための自己宣伝の文章みたいなものですね。
 それはともかく、ウェイト氏はこの愚者のカードについて、『占いの手引き書』の中でダラダラと述べていますので、興味のある人は、英文ですが買って読んでみてください。
 こういう従来にない意味の逆転は、「0:愚者」を文字通りにしか読めない普通の人には理解されにくいので、ウェイト氏は、わざわざ「more than ordinary gifts/普通の才能以上」の人に限定するという卑怯なテクニックまで用いて、オタクな読者を釣ろうとしていますね。(笑)
 でもまあ、占い系の知識では、「0:愚者」を理解するのは無理ですので、さらに熱心な人達は魔術の世界へとハマっていくというわけです。

We shall see how the card fares according to the common arts of fortune-telling, and it will be an example, to those who can discern, of the fact, otherwise so evident, that the Trumps Major had no place originally in the arts of psychic gambling, when cards are used as the counters and pretexts.
我々は、占いの一般的な技術に従って、どのようにカードが扱われるかがわかるだろう。そしてそれは、カードがカウンター(数取り)や見せかけとして使用されている時、精神的な賭け事の技術の中においては、「大アルカナ」には初めから場所は無いということが、実際に、もしくはとても明白に、認識できる人にとっての例となるであろう。

 カウンター(数取り)というのは、ゲームで使われる「得点を表すコイン」のことで、賭けのチップやマージャンの点棒みたいなものです。
 魔術に精通していたウェイト氏は、占い用に使われているタロットカードが、神聖なものとしての扱いではなく、見せかけだけの単なる道具として扱われていることに対し、かなりの反感を持っているようです。
 この文章では、「arts of psychic gambling/精神的な賭け事の技術」というように、占い師のことを賭博師に例えていますからね。

 実は、このライダーウェイト版タロットの大アルカナは、占い用としてではなく、本格的な魔術用にデザインされたものなのです。
 日本においては、その本来の魔術的な意味を全くと言っていいほど知らされず、本来の目的から大きく外れた、見せかけだけの占い用としてのみの使い方をされているのが実情です。
 ウェイト氏が、こんな日本の実情を見たら、きっと「なんだかなぁ〜」とため息をつくのではないかと。(苦笑)

Of the circumstances under which this art arose we know, however, very little.
しかしながら、この(占いの)技術が生じた状況について、我々が知っていることは、ほとんど無い。

 タロット占いの歴史に関する資料って、今でも少なくて、その起源については、わからないことが多いです。
 そもそも、現代においても、色々な占い方法が日々開発されていますし、カードの解釈なんかも人それぞれでカオスですからね〜。

The conventional explanations say that the Fool signifies the flesh, the sensitive life, and by a peculiar satire its subsidiary name was at one time the alchemist, as depicting folly at the most insensate stage.
従来の説明では、「愚者」は肉体、感受性を持つ生命と言われている。そして、最も不条理な舞台で描いた愚行として、特異な皮肉を込めて、一時期には、補助的な名前は錬金術師であった。

 もちろん、ウェイト氏は、このような解釈は全否定しています。
 間違っても、ウェイト氏が、このカードにこういう意味をもたせたと思ってはいけません。

 で、過去のある時期、このカードは「愚者」だけではなく、蔑称として「錬金術師」と呼ばれたこともあったようですが、これはエッティラ氏のカードのことだと思われます。
 絵柄的には、錬金術師の別称は、「1:魔術師」や「14:節制」の方が雰囲気あるんですけどね。(笑)


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