The gallows from which he is suspended forms a Tau cross, while the figure--from the position of the legs--forms a fylfot cross.
彼が吊されている絞首刑台は、タウ十字を形作っている。そして人物の足の姿勢は、卍(まんじ)十字を形作っている。
「gallows/絞首刑台」は、通常は両脇の二本の垂直な柱の間に横木を渡したものですが、ここでは一本の垂直な柱に横木をかけるという特殊な形になっています。
「Tau cross/タウ十字」というのはT字形の十字架のことで、エジプト十字(アンク十字とは別)とも呼ばれる古い形の十字架で、旧約聖書の世界で使われており、後のイエス・キリストの磔刑を示唆するものとも言われています。
タウ十字
ちなみに、足の卍形は不完全ですが、何となく左足がそのような形になっているのがわかりますよね。
まあ、吊られている右足で卍形を作るのは、デザイン的にもムチャでしょうけど。
There is a nimbus about the head of the seeming martyr.
受難(殉教)者のように見える者の頭のまわりには、後輪(後光)がある。
「martyr/受難(殉教)者」は、信仰を貫くために、受難に耐え、殉教さえもいとわないという者です。
そして「nimbus/後光」が差しているというのは、この人物が普通の人間ではないレベルに到達したという証拠ですね。
この人物は、ここでは特定されていませんが、イエス・キリストに関係のあることは確かです。
It should be noted
以下のことに注目すべきである。
(1) that the tree of sacrifice is living wood, with leaves thereon;
(1) 生贄の木は生きている木であり、そのうえに葉がある。
この木は単に生きているというだけでなく、さらに葉まで茂っている。つまり死や休息状態ではなくて、まだまだ活動して成長しているという暗示です。
なお、「sacrifice/いけにえ」というのは、本来は神に対する捧げ物ですので、この場面を犯罪者の処刑と見るのは、全くの間違いということになります。
(2) that the face expresses deep entrancement, not suffering;
(2) 顔は、苦痛ではなく、深い恍惚状態を表現する。
つまり、受難や苦役などのネガティブなものではなく、むしろ今までにない喜びに満ち、内面的に高揚している状態であるということですね。
つまり、この人物は、ドMであるということです。(嘘)
(3) that the figure, as a whole, suggests life in suspension, but life and not death.
(3) 人物は、全体として、生命の一時的な停止、しかし死ではなく生きていることを暗示している。
生命の表向きな成長(肉体)は一時停止するけれども、その裏側(精神)では着実に成長し続けているということですね。
It is a card of profound significance, but all the significance is veiled.
それは深遠な意味のカードであるが、重要な意味は全てベールに覆われている。
つまり、カードに描かれた表面だけを見ても、隠された本当の意味、つまりこの人物の内面的な成長というのは決してわからないということです。
One of his editors suggests that Eliphas Levi did not know the meaning, which is unquestionable nor did the editor himself.
エリファス・レヴィが意味を知らないと示唆した彼の(著作の)監修者の一人は、その(レヴィが意味を知らなかった)ことは疑いようがないが、監修者自身もまた、そう(意味を知らない)であった。
この「editor/監修者」は、おそらくレヴィの著作を英訳して紹介した『神聖界の魔術儀式』の著者であるウェストコット氏のことだと思われます。この著作の「吊られた男」の項目には、「Its
real meaning is now known to but very few; there is the gravest doubt whether
Levi knew it himself./その本当の意味は、現在では極めてわずかしか知られていない。レビ自身がそれを知っていたかどうかという最も重大な疑いがある。」という節がありますので、そこをネタにしているのでしょう。
つまり、おまえらはまだ本当の意味を分かってないけど、オレはもう知ってるよ、といういつもの自慢話ですね。(笑)
It has been called falsely a card of martyrdom, a card a of prudence, a card of the Great Work, a card of duty; but we may exhaust all published interpretations and find only vanity.
それは、殉教のカード、思慮分別のカード、「偉大なる仕事」のカード、義務のカードと誤って呼ばれていた。とはいえ、我々は、発表された全ての解釈を研究し尽くしせば、そこには空虚だけをがあることを知るだろう。
ここは、ウェイト氏お得意の従来説全否定のパターンですね。
要するに、地上界での話では無いよ、と言いたいのでしょう。
I will say very simply on my own part that it expresses the relation, in one of its aspects, between the Divine and the Universe.
私自身の側から、非常に簡単に述べるとすれば、その1つの見方として、「神と宇宙」の間の関係を表現していると言うだろう。
たぶん、我々が見ることも感じることもできない「神=神や魂の領域」と、見ることも感じることもできる「宇宙=存在する領域」の関係ってことですよね。
非常に簡単すぎて、これだけでは意味不明なんですが・・・・。
He who can understand that the story of his higher nature is imbedded in this symbolism will receive intimations concerning a great awakening that is possible, and will know that after the sacred Mystery of Death there is a glorious Mystery of Resurrection.
このシンボル体系に埋め込まれている、より高位の本質の話を理解することができる人はだれでも、偉大な覚醒を可能とすることに関する暗示を受け取ることができるだろう。そして、神聖なる「死の神秘」の後に、栄光の「復活の神秘」があることを知ることになるだろう。
とりあえず、このカードは、イエス・キリストの受難と復活をモチーフにしていることは間違いなさそうですが、それにしても解釈が難しいカードです。後に続く、「13:死」のカードとの関係も、考える必要があります。
このカードの本当の意味を理解するためのキーポイントは、いくつかあります。
(1) 魔術団の儀式。
ウェイト氏は、このカードのデザインとして、ゴールデン・ドーンのAdeptus Minorイニシエーション儀式を参考にしているとの情報があります。この儀式は、キリストの死と復活をモチーフとしたもので、これを元に現在のゴールデン・ドーンのシンボルも作られています。このシンボルは、この吊られた男の象徴と非常に良く似ています。Adeptus Minorは、ゴールデン・ドーンの中ではトップクラスの位階ですので、それくらいのレベルにならないと、このカードの本質は理解できないということになりますね。
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現在のゴールデン・ドーンのシンボル(1997年商標登録)
(2) 元素の水
このカードは、元素の水に割り当てられます。水は、浄化と潔白のシンボル、そして新たなる生命を育むものとされています。ライダーウェイト版のカードデザインには、水を示唆するものはありませんが、割り当てられているヘブライ文字のメムは、水を意味します。
(3) ペテロ殉教
オカルト的な解釈の一つとして、『新約聖書外典:ペテロ行伝』にある、逆さ磔刑に処された聖ペテロを暗示しているという説があります。
(4) イスカリオテのユダ
さらなるオカルト的外道解釈として、キリストの12番目の使徒で、イエスを裏切り、その後、首を吊って自殺したイスカリオテのユダを暗示しているという説があります。ユダは裏切り者として嫌われていますが、彼こそが、イエス・キリストを神として再生させることのできた真の殉教者であるという話があり、これはオカルトネタ的にはかなり面白いものがあります。
まあ、あれこれと想像できて、楽しめるカードではありますね。