ライダーウェイト・タロット解説

XIII Death / 死



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 昔から不吉と言われ嫌われがちな「13:死」のカードですが、ウェイト氏は、魔術の要素を大胆に取り入れて、このカードに大変革をもたらしています。

The veil or mask of life is perpetuated in change, transformation and passage from lower to higher, and this is more fitly represented in the rectified Tarot by one of the apocalyptic visions than by the crude notion of the reaping skeleton.
生命のベールや仮面は、低いところからより高いころへと変化、変換、および通過の中で永続させられている。そしてこれは、収穫骸骨の粗雑な概念よりも、黙示録的な光景の一つにより修正されたタロットにより、適切に表現される

 まずは、大事なことなので、最初に言いました。
 生命の中核(魂)は変化しないけれども、生命のうわべの部分(ベールや仮面)は、低いところから高いところへと永遠に変化し続けている。
 これが、今までの「死」とはちょっと違う、この「死」のカードのキーポイントです。

 注目すべき点は、このカードの死神の兜には赤い羽根が付いていて、白い薔薇の旗を持っていますが、これは「0:愚者」のカードのシンボルに通じる部分です。
 つまり、この死神は、実は「0:愚者」自身が変化した、「旅の途中」の姿であり、次の「14:節制」のカードが示す錬金術の作用の結果として、「13:死」のカードは「黒化(白化)」のプロセスになり、そして「12:吊られた男」のカードは「黄化」に関係します。
 この「13:死」のカードは、典型的な「錬金術」のプロセスに関するカードであり、今までの占い用としてだけではなく、本格的な魔術用として、大きく意味や存在意義を変えたカードの一つということですね。

  さて、「reaping skeleton/収穫の骸骨」とは、収穫用の大鎌(カマ)を振る骸骨の姿であり、これは従来タイプのタロットによく見られる構図です。


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マルセイユ版の「13:死」

 一方、ウェイト氏は、従来の構図は全く気に入らないようで、以下のデューラーの版画を参考にしたような感じですね。


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ヨハネの黙示録より四人の騎士
The Four Riders of the Apocalypse
アルブレヒト・デューラー作

 この絵は、『新約聖書:ヨハネの黙示録』6:2の、白・赤・黒・青白い馬をモチーフとしたもので、この最後の青白い馬の、『新約聖書:ヨハネ黙示録』6:8の「そして見ていると、見よ、青白い馬が現れ、乗っている者の名は「死」といい、これに陰府が従っていた。彼らには、地上の四分の一を支配し、剣と飢饉と死をもって、更に地上の野獣で人を滅ぼす権威が与えられた。」が、この「13:死」のカードのテーマとなっています。

 そしてさらに、ウェイト氏が、ネタにしたと思われるものを、もう一つ。


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騎士と死と悪魔
Knight, Death and Devil
アルブレヒト・デューラー作

  これもデューラーの版画ですが、この絵の騎士は、「キリストの騎士」とも呼ばれており、「死」や「悪魔」を前にしても、それを恐れることなく、この腐敗した世界を救済するために、自らの修行の道を黙々と歩みつづけています。
 もしウェイト氏が、この絵をモチーフとしているのであれば、この13番のカードの人物は、「死神」ではなく、「キリスト」へと変化していく途上のイエスの姿そのものということになりますね。

 ウェイト氏は、ゴールデン・ドーンや英国薔薇十字協会(Societas Rosicruciana in Anglia)に加入し、その後自ら、薔薇十字友愛団(Fellowship of the Rosy Cross)という魔術団体を作っているように、薔薇十字団に興味を持っています。
 その薔薇十字団というのは、十字軍、テンプル騎士団という歴史をネタに作られた魔術団体であり、騎士を重要視していますので、ウェイト氏も、この「聖なる騎士」の姿というものに、色々と興味があったようで、この「死」のカードのデザインは非常に複雑で意味深なものになっています。

Behind it lies the whole world of ascent in the spirit.
その背後には、霊魂(精神)の向上の全世界が広がっている。

 この後ろの不思議な光景は、霊魂(精神)を向上させる世界だそうです。
 まあ、左から来た船が、洞窟の穴に入り、滝の裏を通って、滝の上に到達するんですね。

 滝のシンボルは、「3:女帝」にもあり、『旧約聖書:創世紀』2:10の「エデンから一つの川が流れ出ていた。園を潤し、そこで分かれて、四つの川となっていた。」を連想させます。

The mysterious horseman moves slowly, bearing a black banner emblazoned with the Mystic Rose, which signifies life.
生命を意味する「神秘の薔薇」の紋章に飾られた黒い旗を携え、神秘的な騎手はゆっくりと動く。

 生命を意味する「神秘の薔薇」の紋章と言えば、まさしく薔薇十字ですよね。
 実は、この薔薇十字団のネタ元の一つとなっているのは、あの宗教改革で有名なマルティン・ルター(Martin Luther、1483-1545)であり、そのルターの教えを起源とするルーテル教会で使われている「ルターの紋章」というものが、この「死」の旗の紋章に似ていたりします。


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ルターの紋章

 ちなみに、この花弁の形は、『旧約聖書』に出てくる「シャロンの野バラ」に近いイメージです。


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シャロンの野バラ(日本名:むくげ)

 どれも色々とワケアリで、謎めいているところが面白いですね。

Between two pillars on the verge of the horizon there shines the sun of immortality.
地平線の間際にある2本の柱の間には、不死の太陽が輝いている。

 これは、「14:節制」のカードにも見られるデザインで、生命の木の左右の柱と、ケテルの輝光を象徴します。
 ただし、それは「13:死」のいる地平面ではなく、崖の上の地平にあります。
 そこにたどり着くには、低いところからより高いころへと変化することの必要性を示しています。

The horseman carries no visible weapon, but king and child and maiden fall before him, while a prelate with clasped hands awaits his end.
騎手は、目に見える武器は持っていないが、彼の前の王と子供と処女は倒れており、その一方で、合掌している高位聖職者は、自らの最期を待っている。

 まあ、見ての通りの死神の姿とはなっていますが、本当の死神ではないので、武器は持たないんですよね。
 そしてもちろん、この死神は、誰かを殺すということもありません。

 王と子供と処女が倒れているのは、この「13:死」のカードの試練に耐えられずに、ここでゲームオーバーとなってしまったのではないかと推測します。そして高位聖職者は、やはりこれ以上の試練は無理であることを悟り、後はこの死神に世界の救済を託して、自らは退くという状態ではないかと推測します。

There should be no need to point out that the suggestion of death which I have made in connection with the previous card is, of course, to be understood mystically, but this is not the case in the present instance.
私が以前のカードに関連して行った死の暗示を指摘する必要は全く無く、言うまでもなく、神秘主義的に理解されるべきものであり、これは現在の例(このカード)の場合には無い。

 従来の「13:死」のカードの解釈には、文字通りの物理的、生物的な「死」という暗示があったけれども、このカードには、そのようなものは一切なく、あくまでも神秘主義的な「死」と解釈されなければならないということですね。

The natural transit of man to the next stage of his being either is or may be one form of his progress, but the exotic and almost unknown entrance, while still in this life, into the state of mystical death is a change in the form of consciousness and the passage into a state to which ordinary death is neither the path nor gate.
人間の存在の次の段階への人の自然な変化は、人の進化の一つの形である、もしくはそうであるかもしれない。しかしながら、この生命がまだある間であっても、神秘的な死の状態になる、外来(新種)のほとんど知られていない入り口は、意識の形態の変化であり、普通の死がたどる道でも門でもない状態に至る通路である。

 「natural transit/自然な変化」というのは、神秘主義的解釈でない、現実世界での変化を示し、物理的・生命的・精神的な「死」というものを含みます。「生命的な死」の後に、次の世界へと転生することで進化するのは、割と良く知られた概念です。

 それに対して、神秘主義的な「死」は、生命や肉体はそのままで、通常の「死」の道とは異なる経路で、霊的進化を遂げることが出来ると言うわけですね。

 こういうのは古来より多くの神秘主義団体が持っている考えでもあり、ゴールデンドーンにおいても、各種のイニシエーション儀式に取り入れています。
 今までの汚れた肉体を捨てて、イニシエーションを受けて、新しい魂へと生まれ変わる、という考えですよね。

 でもまあ、死なないと成仏できないよりは、生きている間に成仏しておきたいと考えるのは世の常でして、そのおかげで、この世の中には、ニセの「死」の門のワナが、あちこちにありますので、ご注意を。(笑)

The existing occult explanations of the 13th card are, on the whole, better than usual, rebirth, creation, destination, renewal, and the rest.
13番目のカードの現行のオカルトの解釈は、概して言えば、「普通よりは良いこと、復活、創造、到着地、再開」、その他である

 とはいえ、これもいつものパターンで、ウェイト氏はこういう古来の意味は間違ってると言いたいわけですよね。


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