ライダーウェイト・タロット解説

XV The Devil / 悪魔



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 世間では、怖いとか不吉とか縁起悪いとか言われて、嫌われ者のカードの一つですが、そんなに怖いですかね?
 この悪魔って、割と愛嬌ある顔ですし、結構、人気者のような気もするんですけどね。
 ヒーロー/ヒロインの天使軍団に対抗し、人生を刺激的に送るためのライバル軍団みたいな位置づけなのかもしれません。

 もちろん個人的には、大好きなカードの一つです。(笑)

The design is an accommodation, mean or harmony, between several motives mentioned in the first part.
この図案は、第一章で言及されたいくつかのモチーフの間の、便宜、平均もしくは調和である。

 この本のPartT§2で、従来の「15:悪魔」のカードデザインについて色々と詮索していますが、絵のデザインには、従来の説を、ある程度まで取り入れたということですね。

The Horned Goat of Mendes, with wings like those of a bat, is standing on an altar.
コウモリのような翼を持つ、「メンデスの角のある山羊」が、祭壇の上に立っている。

 この「15:悪魔」のカードは、ゴールデン・ドーンでは、占星術の「山羊座」に割り当てられます。

 「Goat of Mendes/メンデスの山羊」というのは、古代エジプトの都市「メンデス」で神として崇拝されていた「羊」が、手違いで悪魔崇拝のバフォメットの姿に変化してしまったもののようです。
 「羊」と「山羊」は、古代より家畜として重要な存在で、どちらも黄道12星座になってますが、「おひつじ座=春萌え」「やぎ座=冬枯れ」とか、「ヒツジ=従順でかわいい」、「ヤギ=従順じゃなくてかわいくない」とかいうイメージがあって、いつのまにか「羊=神の下僕」と「山羊=悪魔の手先」という感じになっていったようですね。
 テンプル騎士団は、この「メンデスの山羊/バフォメット/サタン」を崇拝したとして、異端尋問にかけられました。
 魔女についても、「メンデスの山羊/バフォメット/サタン」を崇拝したとして、異端尋問にかけられています。
 とはいえ、真の悪魔は、異端尋問を行った権力者の心の中に住み着いているようにも思えます。

 ちなみに、レヴィ氏は、この「メンデスの山羊」をモチーフに「悪魔」をデザインており、ウェイト氏もこれを模倣しています。


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高等魔術の教理と祭儀』より「バフォメット(メンデスの山羊)」

At the pit of the stomach there is the sign of Mercury.
みぞおちのところに、「水星」の記号がある。

 このカードには、何らかの手違いにより、水星は描かれていません。
 レヴィ氏のバフォメット図には、水星を示すヘルメスのカドケウスの杖が描かれていますし、パピュス氏の著書である『ボヘミアンのタロット』の「15:悪魔」(オズワルト・ウィルト版)には水星の記号が描かれていますので、ご参考までに。


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ボヘミアンのタロット』より「15:悪魔」と水星記号

The right hand is upraised and extended, being the reverse of that benediction which is given by the Hierophant in the fifth card.
右手は、高く挙げて広げられており、5番目のカードの「法王」によって授けられる祝福の逆である。

 「5:法王」の右手は、神の祝福のハンドサインを示しています。
 一方、「15:悪魔」の右手は、全ての指を立てて、完全に掌を見せています。

 掌には、何かの記号が書かれているようですが、これは解読できませんでした。
 一説によると、土星の占星術記号ではないかと言われていますが、あまり似ているようには思えません。
 手相から見ると、水星線が異様に濃いのですが、これについても関連性は不明です。

 直接関係ないけど、悪魔のハンドサインといえば、親指と中指と薬指を握り、人差し指と小指を九九九九九九立てて、獣の角に見立てるものが、現在では一般的ですね。

In the left hand there is a great flaming torch, inverted towards the earth.
左手には、地面の方へ向けて逆にされた、大きな燃えている松明がある。

 「5:法王」の左手の杖は、普通に上に向けられています。
 一方、「15:悪魔」の左手は、なぜか下へと向けられ、黒魔術と破壊の象徴である松明を持っています。
 しかし、手は熱くないんですかね・・・・。

A reversed pentagram is on the forehead.
額には、上下逆にされた五芒星がある。

 悪魔って、何でも逆にするのが趣味ですね。
 逆五芒星は、二本の角を持つ獣の頭を表していて、悪魔崇拝のシンボルとして、よく使われています。

There is a ring in front of the altar, from which two chains are carried to the necks of two figures, male and female.
祭壇の正面に輪があり、そこから2本の鎖が、男女の2つの姿(小悪魔)の首まで届いている。

 この人間は、悪魔の奴隷となって、小悪魔化したような状態ですね。
 「male and female/男女」は、動物のオス・メスというニュアンスがありますし、角や尻尾もありますので、人というよりも動物的な小悪魔といった感じの姿になっています。
 なお、純粋に人の性別を表す場合は、「man and woman/男女」を使うことが多いですね。

These are analogous with those of the fifth card, as if Adam and Eve after the Fall.
これらは、5番目のカードのものに類似しており、まるで「堕落した後のアダムとイブ」のようである。

 5番目のカードは、「5:法王」です。
 デザイン的には、「6:恋人たち」のカードにも近いのですが、意味的には、「6:恋人たち」よりも「5:法王」の反対というところですね。
 ・「5:法王」のカードは、「善」であり、呪縛を解くための鍵があり、人物は「法王」の方を向いて崇拝している。
 ・「15:悪魔」のカードは、「悪」であり、呪縛するための鎖があり、人物は「悪魔」にそっぽを向いて崇拝していない。
 こんな対応関係でしょうか。

Hereof is the chain and fatality of the material life.
これについては、物質的な生命の束縛と宿命である。

 我々人間が、この地上において肉体と生命を得るにあたり、物質的に呪縛され、最期は死という運命からは逃れられないということを表しているのですね。

The figures are tailed, to signify the animal nature, but there is human intelligence in the faces, and he who is exalted above them is not to be their master for ever.
その姿(小悪魔)には、動物の性質を示すために尾が付けられているが、その顔には人の知性がある。そして彼ら(小悪魔)の上で得意になっている彼(大悪魔)は、永遠に彼ら(小悪魔)の支配者であることはない。

 地上にいる我々人間は、たとえ体は動物のようであったとしても、顔は悪魔のような動物のものではなく、神から授かった知恵を持つ人であるということと、いつまでも動物の体には束縛されないということですね。

Even now, he is also a bondsman, sustained by the evil that is in him and blind to the liberty of service.
今もなお、彼(大悪魔)もまた奴隷であり、彼の中にある悪と、役務の解放からの目隠しにより維持されている。

 「liberty of service/役務の解放」というのは、悪の手先となるために捕えられた悪魔が、奴隷的な仕事(service)から逃れて、自由にやりたいことをやれる状態のことです。
 でも、それができないのは、彼の中に住む「悪」のせいだというのです。
 おそらく、この悪魔だって、やりたくて「悪」の仕事をやっているわけではないんでしょうね。
 ここで「evil/悪」という言葉が出ていますが、これはエデンの園にある善悪の知識の木に関係しています。

『旧約聖書:創世紀』2:9より
「And the LORD God made all kinds of trees grow out of the ground?trees that were pleasing to the eye and good for food. In the middle of the garden were the tree of life and the tree of the knowledge of good and evil./主なる神は、見るからに好ましく、食べるに良いものをもたらすあらゆる木を地に生えいでさせ、また園の中央には、命の木と善悪の知識の木を生えいでさせられた。」

 「善」が法王で、「悪」がこの悪魔のカードを象徴しているとすれば、この「悪」は、実は神の創造物であることが推察できます。
 つまり、悪魔は神の奴隷であり、人間に「悪」を経験させるための大事な役を勤めているということですよね。

 まあ、神様だけが、天上の別世界に偉そうに住んでいて、人間や動物や悪魔は、この物理世界の住人で、みな苦労を共にする家族みたいなものですけどね。
 神様に向かって、「おまえらは、そんなに偉いのか」、とか言ってみたいです。(笑)

With more than his usual derision for the arts which he pretended to respect and interpret as a master therein, Eliphas Levi affirms that the Baphometic figure is occult science and magic.
そういった中で、主人として尊敬し解釈することを装う彼(大悪魔)の術策の結果としての、彼(大悪魔)のいつも以上の嘲笑を用いて、エリファス・レヴィは、バフォメットの姿が神秘学と魔法であることを確言する。

 「Baphometic figure/バフォメットの姿」というのは、前に述べたように、レヴィ氏が描いた有名な悪魔(バフォメット=メンデスの山羊)の姿です。
 そのレヴィ氏が描いた悪魔の嘲笑する表情は、かなり冷酷な感じで、これが「神秘学と魔法」というものと深い関連があるとウェイト氏は考えているようです。(って、ほんまかいな。)

 でもね〜。
 「悪い」とか、「やっちゃダメ」と聞くと、ついつい人間って、やってしまうものなんですよね〜。(悪魔の冷笑)

Another commentator says that in the Divine world it signifies predestination, but there is no correspondence in that world with the things which below are of the brute.
別の解説者は、「神」の世界ではそれは運命を意味すると言っているが、しかしながらその世界と下位の獣の世界のものにおいては何の対応も無い。

 この「Another commentator/別の解説者」というのは、おそらくポール・クリスチャン氏のことですね。
 神界では「predestination/予定された運命」であり、物理界では「unforeseen,fatality/予測不能の、不慮の死」と言っていますので、こういう説明はムチャクチャではないかと、ウェイト氏は言っているのではないかと思われます。

What it does signify is the Dweller on the Threshold without the Mystical Garden when those are driven forth therefrom who have eaten the forbidden fruit.
それ(このカード)が意味していることは、「神秘の庭」において、禁断の果実を強制的に食べさせられ、そこから追放されて「境界にいる居住者」である。

 つまり、アダムとイブが知恵の木の実を食べさせられたのは神の指図であり、エデンの園から追放されたのも神の定めた運命であり、全ては黒幕でシナリオを書いた神の思うがままということで・・・・。
 そういう意味では、この大悪魔も小悪魔も、神の犠牲者というか操り人形だったということであり、実は悪魔というものは、見た目が違うだけで、天使と何ら変わりないものであるということなんですよね。


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