ライダーウェイト・タロット解説

XVIII The Moon / 月



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The distinction between this card and some of the conventional types is that the moon is increasing on what is called the side of mercy, to the right of the observer.
このカードといくつかの従来タイプとの差違は、月がいわゆる慈悲の側、つまり観察者の右に満ちていることである。

 ウェイト氏は、さっそく自慢げに、従来カードとの「違い」を語ってますね。
 ここで、「side of mercy/慈悲の側」というのは、カバラの生命の木の「2:コクマー」・「4:ケセド」・「7:ネツァク」からなる右側の慈悲の柱のことであり、男性原理、積極性の性質を持ちますので、こちらから満ちていくのは自然な感じです。
 なお、この「右から満ちる」というアイデアは、マルセイユ版のニコラ・コンヴェル版や、パピュス氏の『ボヘミアンのタロット』にも見られますので、ウェイト氏のオリジナルデザインというわけではないです。


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マルセイユ版(ジャン・ドダル版)の「18:月」

 ただし、現実の夜空にある月は、このように右上側から満ちたりしません。現実の月は右下側から満ちるので、この月は地上から見える月とは違う存在なのでしょうね。

It has sixteen chief and sixteen secondary rays.
それには、16の主光線と16の副次光線がある。

 長い光条が16本と、短い光条が16本で構成されています。
 合計すると32で、これは生命の木のパス(径)の数を象徴しています。
 月そのものが、生命の木を暗示する存在ということですかね。

The card represents life of the imagination apart from life of the spirit
このカードは、霊的生命から離れ、想像の生命を象徴している。

 「life of the spirit/霊的生命」とは、我々の肉体に宿る生命の源みたいなもので、物理界とは異なる次元の存在ではありますが、我々はそれを感じることは、おそらく可能な段階です。
 「life of the imagination/想像の生命」というのは、そのさらに上位の存在で、我々は直接感じることもできない段階のものです。

The path between the towers is the issue into the unknown.
塔の間の小径は、未知へと至る流出口である。

 手前にある水面から、溜まった水が流出するかのごとく、塔の間を通って山の方へと水路のような道が続いています。
 これは、生命の木の「10:マルクト」から、右の柱と左の柱を通って「1:ケテル」へと至る小径を暗示しているようにも思えます。


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Serpent on the Tree of Life

The dog and wolf are the fears of the natural mind in the presence of that place of exit, when there is only reflected light to guide it.
犬とオオカミは、出口のその場所の存在下において、そこへと導くものは反射光でしかないとき、自然な精神の恐怖である。

 ちょっとややこしい言い回しになっていますが、要するに、
 ・犬とオオカミは、その流出口、つまり小径の入り口にいる。
 ・犬とオオカミは、神との繋がりを持たない「natural mind/自然な精神」を象徴している。
 ・神の世界へと至る道は、直接的でわかりやすい導きではなく、間接的な教えの導きしか無い。
 ・神との繋がりの無い精神にとっては、その上に至る道は、不安と恐怖に満ちている。
ということが言いたいわけです。
 そして、その暗くて先の見えない道を登るには、神に対する信頼と勇気が試されるということですね。

 なお、錬金術では、飼い慣らされた犬と野生のオオカミが嫉妬と怒りと狂気により戦い、結果的に犬がオオカミに食われることにより、練金薬を生み出すという話もありますので、それをモチーフとした可能性もあります。


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錬金術の犬と狼の戦い

The last reference is a key to another form of symbolism.
最後に言及しておくことは、(このカードは)象徴体系の別の形式の鍵であるということである。

 つまり、地上の存在である我々の持つ「自然界の象徴体系」から「神界の象徴体系」へと変化させる鍵となる重要な働きをするものであることを言っているわけです。
 そして、このカードを見た目だけで判断して怖がっていると、大きな間違いを犯すということにもなりますね。

The intellectual light is a reflection and beyond it is the unknown mystery which it cannot shew forth.
知性の光は反射であり、先を見せることのできない未知の謎を超えるものである。

 「reflection/反射」には様々な意味を持ちます。
 物理面では「反射、反映、影」という意味になりますが、精神面では「内省、黙想、熟考、反省」という意味となります。
 我々の物理的な目では見ることのできない神々の領域は、知性の光をもって見ることができるということです。
 つまり、この月の光は、実は我々の世界を照らす光ではなく、精神的な世界を照らす光だということですね。
 ちなみに、ウェイト氏の時代は、既に天文学は発達しており、月の光が太陽光の反射であるということも広く知られていました。

It illuminates our animal nature, types of which are represented below--the dog, the wolf and that which comes up out of the deeps, the nameless and hideous tendency which is lower than the savage beast.
それ(月)は、私たちの動物的本質、(カードの)下方に描かれている…犬とオオカミ、そして無名で、野蛮な野獣より低いところにある醜悪な傾向を持ち、深淵より這い上がってくるもの…の類のものを照らしている。

 動物的本質として、ここでは3つの象徴が挙げられています。
  (1)犬 … 割と知性のある人になつく動物
  (2)オオカミ … 野生の獣
  (3)名も無き醜悪なもの(ここではザリガニの姿) … 得体の知れない魔物

It strives to attain manifestation, symbolized by crawling from the abyss of water to the land, but as a rule it sinks back whence it came.
それ(ザリガニの姿)は、水の深淵から陸まで這うことによって象徴された発現を獲得しようと奮闘するが、通常それは、それが来た場所へと沈み戻っていく。

 名も無き醜悪な魔物は、無意識の世界から意識の世界へと這い上がって、得体の知れない恐怖心を呼び起こしますが、いつもは表に出て暴れることはなく、再び静かに無意識の世界へと戻っていきます。

 なお、「13:死」には、この月と同じように2本の塔があり、その下から水が流れ出していると見ることができますので、この月のカードは、その場所を示しているという考えもあります。
 つまり、死神が川に潜り、洞窟にある滝を登って、このザリガニの姿として生まれ変わったというものですね。

The face of the mind directs a calm gaze upon the unrest below; the dew of thought falls; the message is: Peace, be still; and it may be that there shall come a calm upon the animal nature, while the abyss beneath shall cease from giving up a form.
精神の顔は、下にある不安に穏やかにじっと視線を向けている。思考の露が降る。 メッセージは以下の通りである。「平穏」に、静かにしていなさい。 そうすれば、動物的本質はおそらく落ち着きを取り戻し、下にある深淵(に存在するもの)は、姿を表すことをやめ、あきらめるであろう。

 この天空から降ってくる露の形は、ヘブライ文字の聖四文字である、ヨッド(手)であり、神の恩寵でもあります。
 従来のマルセイユ版では、この月の雫が下降ではなく上昇しているように見えることから、色々な悪い噂がありますが、ウェイト版では、明確に「fall/降下」していると記述されています。

 この月は、神そのものではなく、神の光の反射であり、心の世界にあるものです。
 人は、新しい精神世界へと踏み出すのは、今までにない経験ですので、恐怖と不安でいっぱいです。
 その恐怖心に打ち勝つのは、自らの力ではなく、心静かにして、おだやかに降ってくる神の導きの言葉を素直に受けて、心を乱さないようにすることで、今まで歩いたことのない道も、不安なく歩み始めることが出来るということですかね。


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