ライダーウェイト・タロット解説

II The High Priestess / 高等女司祭



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 「2:高等女司祭」のカードは、「女司祭長」とも「女教皇」とも呼ばれますが、このタロットの場合、このカードのタイトルとしては、あまりマッチしていません。どちらかというと、「大地母神」ならぬ「大天母神」という感じですかね。

 そういう意味では、従来のマルセイユ版の方が「高等女司祭」っぽい感じが出ていますが、こっちは俗っぽいというか人間っぽい感じで神聖さという点では不満が残りますね。

She has the lunar crescent at her feet, a horned diadem on her head, with a globe in the middle place, and a large solar cross on her breast.
彼女は三日月を足元に置き、角のある王冠を頭に載せている。王冠の中央には球があり、胸には大きな太陽を表す十字架を提げている。

 この「雌牛の角と、月を象徴する球のある王冠を頭に載せた」姿は、エジプト神話のイシス神(ハトホル神と習合)を象徴するものです。イシスは月の女神、水を司る女神として、また太陽神ラーの秘密を盗むことで強大な神秘の力をも身につけ、偉大なる母神・女神として、後のギリシャ・ローマ時代においても人々の信仰を集めました。


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イシス神(ハトホル神と習合)

 また、ここは『新約聖書:黙示録』12:1 の部分をも暗示しています。「また、巨大なしるしが天に現われた。ひとりの女が太陽を着て、月を足の下に踏み、頭には十二の星の冠をかぶっていた。」
 ここの「頭には十二の星の冠」のシンボルは、「3:女帝」に取り入れられていますが、その他の部分は、高等女司祭の姿に似ていますね。
 ちなみに、この「頭には十二の星の冠」は、聖母マリアの像にも見られます。

 太陽を表す十字架(solar cross)は、古代より太陽を表すシンボルといて良く使われているもので、横木が軸木と等長な十字の形です。十字の形状に関しては様々な説(日食時のコロナを模したものとか、太陽の光芒とか)があり、十字を囲むように円を施す場合もあります。なお、円がついていない場合は、ギリシャ十字となります。

The scroll in her hands is inscribed with the word Tora, signifying the Greater Law, the Secret Law and the second sense of the Word.
手には「トーラー」の語が書かれた巻物を持っているが、トーラーとは「大いなる法」、「秘密の法」という意味であり、さらには神の「言葉(あるいは聖書)」という意味もある。

 「Tora/トーラー」は、ヘブライ語の「教え」という意味で、日本では「法」もしくは「律法」と訳されています。一般には、『旧約聖書』の最初の5書(創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記)を指し、これらは5本の巻物に記されていました。その主な内容は、神との契約です。

 そして、古代エジプトでは、イシスは「神が人間に見せる女性的位相」とされ、知恵と真実と力を表すものとされました。

It is partly covered by her mantle, to shew that some things are implied and some spoken.
それが部分的に彼女の外套に隠されているのは、ある部分は暗示されていたり、口伝されていたりすることを示している。

 秘儀の伝承では、「書かれたもの」だけでなく、「implied/暗示」や「spoken/口伝」 も重視されます。
 単なる文字の羅列だけでは伝わらないものを伝えること、それも技術の継承にとっては重要なことです。
 マニュアルを読んだからと言って、全ての作業が出来るようになるわけではないのです。

 伝説の話では、イシスは奥義を授かった者だけにヴェールを上げて見せるが、それを見た者は決して口外してはならないとされています。

 ちなみに、カバラによると、この外套はエン・ソフ(Ein-Sof)がもつ神秘的な言語的活動にもとづいて形作られるとされます。
 『旧約聖書:申命記』29:29には「隠微(かくれ)たる事は我らの神エホバに属する者なりまた顕露(あらは)されたる事は我らと我らの子孫に属し我らをしてこの律法(おきて)の諸(すべて)の言(ことば)を行はしむる者なり」とあります。

She is seated between the white and black pillars--J. and B.--of the mystic Temple, and the veil of the Temple is behind her: it is embroidered with palms and pomegranates.
彼女は秘儀の神殿の白と黒の柱…J.とB.…の間に座っており、神殿のヴェールが後ろに見える。それにはナツメヤシとザクロの刺繍が施されている。

 この神殿の柱というのは、『旧約聖書:列王記上』7:21、『旧約聖書:歴代誌略下』3:17に出てくる、神殿の前に立つ2本の柱のことです。
 右側にある"J"はヤキン(Jachin,またはJachim)と呼ばれ、「設立する。固くする。」という意味を持ちます。
 また、左側にある"B"はボアズ(Boaz)と呼ばれ、「力によって」の意味を持ちます。

 ヴェールの刺繍にあるナツメヤシとザクロは、神殿建築の装飾によく使われていて、繁栄や神の祝福を表します。また、ナツメヤシが男性原理、ザクロが女性原理を示しているとも解釈できます。さらに、ザクロの配置が、カバラの「生命の木」と同じであることも注目に値します。

The vestments are flowing and gauzy, and the mantle suggests light--a shimmering radiance.
法衣(祭服)はなだらかに流れて薄く透き通っており、外套はゆらめきながら輝く光を表している。

 この表現は、神の力の流出というものを、イメージさせます。

She has been called Occult Science on the threshold of the Sanctuary of Isis, but she is really the Secret Church, the House which is of God and man.
彼女はイシスの聖域の入り口にある「隠秘の智識」であると言われてきたが、彼女はまさに「秘密の教会」であり、「神と人間の館」である。

 というか、このカードの「彼女」は、「イシス」そのものですね。
 イシス伝説によると、彼女は天界の知識である技術、魔術、医療術を、トート(ヘルメス)神の力を借りて人間に伝えたということです。このため、あちこちにイシスを崇拝する神殿が作られました。

She represents also the Second Marriage of the Prince who is no longer of this world; she is the spiritual Bride and Mother, the daughter of the stars and the Higher Garden of Eden.
彼女はまた、もうこの世界ではない「王子の二度目の結婚」を意味している。彼女は霊的な「花嫁」にして「母」であり、星たちの娘で、「より高い次元におけるエデンの園」である。

 「Second Marriage of the Prince/王子の二度目の結婚」というのは、2つの意味を持ちます。
 1つは、エジプト神話でのイシスの、殺されて復活したオシリスとの二度の結婚。
 もう1つは、同じく殺されて復活したキリストとの二度目の結婚ですね。

 なお、イシスは、キリスト教世界では、「聖母マリア」と習合しており、イシス信仰はマリア崇拝へと受け継がれているところが多くあります。

She is, in fine, the Queen of the borrowed light, but this is the light of all.
要するに、彼女は反射(借りてきた)光の「女王」であるが、反射光こそ全ての光でもある。

 イシスは、月の女神です。月は太陽光の反射により輝きます。
 また、伝説によるとイシスの教育はヘルメス(トート)神によるとされ、イシスは人間に文字や技術、知恵と密議、そして愛を教えたということです。

She is the Moon nourished by the milk of the Supernal Mother.
彼女は「天界の母」の乳によって育てられた「月」である。

 参考までに言うと、イシスの母は、天空の女神「ヌト」ですね。

In a manner, she is also the Supernal Mother herself--that is to say, she is the bright reflection.
ある意味では、彼女はまた「天界の母」そのものである――言い換えるなら、彼女は輝く反射光なのである。

 ヌトは、偉大なる天空の母で、太陽と月と星に関係していました。
 一方、イシスは偉大なる地母神としての性格が強いのですが、その影響力の強さから、天界をも司る役割を与えられています。

It is in this sense of reflection that her truest and highest name in bolism is Shekinah--the co-habiting glory.
この意味で、主義体系に沿っていうならば、彼女の最も真正にして至高の名前は「シェキーナー」…共存する栄光と呼ばれる。

 ユダヤ教の僧侶であるラビたちは、「聖霊」という名称の代りに「シェキーナー」という名称を用いています。シェキーナーとはヘブライ語で、住処・休息所を意味します。一般的には神の実在する場を意味する用語として用いられています。

According to Kabalism, there is a Shekinah both above and below.
カバラの教義によれば、シェキーナーは上の世界にも下の世界にもある。

 シェキーナーは第一世界であるアツィルート('Atsiluth)の世界で、神ならびに神に内在する女性であるシェキーナーの合一が起こります。
 また、自然・人間の世界である第四世界、アッシャー(Asiyah)の世界では、人間や人間の魂と絶えず対決している邪鬼に混じって追放(離散)の状態で生きています。

In the superior world it is called Binah, the Supernal Understanding which reflects to the emanations that are beneath.
上なる世界においてはそれは「ビナー」、つまり「天界の理解」と呼ばれ、下方への流出を反射する。

 「Binah/ビナー」は、よく知られたカバラの「生命の木」の第3セフィラのことで、一般には「理解」と訳されています。また、「天界の母」という役割も持ちます。

In the lower world it is Malkuth--that world being, for this purpose, understood as a blessed Kingdom that with which it is made blessed being the Indwelling Glory.
下なる世界においては、それは「マルクト」である。その世界の本質は、このために、「内在する栄光」により祝福された、「祝福された王国」として理解されている。

 「Malkuth/マルクト」は、「生命の木」の第10セフィラのことで、一般には「王国」と訳されています。また「下界の母」という役割もあります。
 ゴールデン・ドーンのマサース氏は、著作の中で、シェキーナーをマルクトに対応させています。
 ちなみに、先に述べた第四世界(アッシャー界)にはマルクトが対応しています。カバラの有名な書物である『ゾーハル/光輝の書』では、通常ケネッセース・イスラーエール(イスラエル共同体の神秘主義的原像)やシェキーナーと呼ばれます。

 なお、栄光には二種類あるとされます。第一には「内的栄光」と「可視的な栄光」です。この「内的栄光」は時には神の意志と同一視され、姿かたちをもちません。一方の「可視的な栄光」は神の意志によって変貌する形式と形態をもっています。

Mystically speaking, the Shekinah is the Spiritual Bride of the just man, and when he reads the Law she gives the Divine meaning.
神秘主義的に言えば、「シェキーナー」は、義人の「霊的な花嫁」なのである。そして、彼が「法」を読むとき、彼女は「神の意図」を授ける。

 「just man/義人」というのは、聖書の言葉で、「神の教えを守り、正しく生きる人」という感じですね。神の教えを守り、神の意図のままに生きる人のみが、真の神の意味を知ることができるということです。「旧約聖書:箴言」の第10章では、この「義人」を詳細に記しています。

 ということで、タロット占いをする人は、「義人」でないと、カードの示す「法」の意味が理解できないということですね。
 みなさんも、正しい生活をしましょう。

There are some respects in which this card is the highest and holiest of the Greater Arcana.
このカードは、「大アルカナ」の中で最も神聖で高位に位置するとする見方もある。

 神聖さと高位さでライバルとなりそうなのは「1:魔術師」のカードですが、魔術師のアポロと、高等女司祭のイシスでは、人気度の点ではイシスの方が強そうです。


※カバラに関する参考文献

書名:カバラーの世界
著者:パールエプスタイン
訳者:松田和也
発行所:青土社
書名:カバラとその象徴的表現
著者:ゲルショム・ショーレム
訳者:小岸 昭/岡部 仁
発行所:法政大学出版局

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