ライダーウェイト・タロット解説

IV The Emperor / 皇帝



クリックで拡大

 さてさて、太陽・月・地球とくれば、次に来るのは一体何なのでしょうか。
 ウェイト氏は、大アルカナの世界を階層化しているように思えます。
 彼の考えでは、次にくるのは「地上を司る最高位の存在」と考えているようです。
 「4:皇帝」は、「地上での最高権力者」をシンボライズしたものと見ることができますね。

He has a form of the Crux ansata for his sceptre and a globe in his left hand.
彼は「アンサタ十字」の形をした笏を持ち、左手に宝珠を戴いている。

 「Crux ansata/アンサタ十字」は、一般にはアンク十字(Ankh Cross)と呼ばれます。
 古代エジプトで「生命」を意味する象形文字で、「生と死、男(性器)と女(性器)、バランス」を象徴し、神や王の持ち物としてよく使われます。

 また、笏(しゃく)や宝珠は、地上を支配する帝王権の象徴を示します。
 彼は一見すると、エジプト神話のオシリス神に相当し、それゆえ「2:高等女司祭」であるイシス神(オシリスの妹であり妻)と対比される存在であるように思えます。
 でも、何となく、左手に持った卵を、右手のハンマーで割ろうとしているような絵に見えるんだよな・・・。(^^;;

He is a crowned monarch--commanding, stately, seated on a throne, the arms of which are fronted by rams' heads.
彼は戴冠した皇帝で、堂々として、威厳があり、牡羊の頭を前に持つ肘掛のある王座に座っている。

 彼は、王冠を戴き、地上における最高権力者の地位にいることは間違いないみたいです。
 皇帝のカードは、占星術の「牡羊座」に配属されます。
 それゆえ、彼が「生命」や「生殖」に関する象徴(アンク十字、宝珠、牡羊)を持つことになります。
 ちなみに、王冠の頂上にある双葉のようなマークは牡羊座のシンボルであり、王冠に取り付けられた赤と白の宝石は、錬金術的な象徴になりますね。

He is executive and realization, the power of this world, here clothed with the highest of its natural attributes.
彼は、執行者であり実現者、現世における統治力であり、ここでは、その本来の特質を示す最高の衣服をまとっている。

 つまり、彼のいる位置は、魔術師、高等女司祭、女帝という「絶対的な神の領域」ではなく、この現実世界に一歩近づいた世界であり、その中では最高権力者であり、それに基づき行動する者であるということですね。

 なお、彼は、最高の衣服をまとっているようには見えないかもしれませんが、この最高の衣服は、目に見えるものではないので、外見に惑わされないようにしましょう。

He is occasionally represented as seated on a cubic stone, which, however, confuses some of the issues.
彼はしばしば立方体の石に座った姿で描かれるが、これは多少問題を混乱させる。

 他の文献やカードの絵では、玉座が立方体の石で描かれているものが、いくつかあります。
 立方石は、現世での4元素を象徴するため、立方石に座す場合は、彼は現世そのものを統治する者と解釈できます。
 参考までに、B.O.T.A.のタロットを挙げておきます。


クリックで拡大

『B.O.T.A.のタロット』より「4:皇帝」

 ウェイト氏は、立方石ではなく、平たくて四角い基盤石の上にある石の玉座に座らせていますので、このデザインには、かなり悩んだと思われます。

He is the virile power, to which the Empress responds, and in this sense is he who seeks to remove the Veil of Isis; yet she remains virgo intacta.
彼は「女帝」に対応する男性的な力を持ち、この意味では「イシスのヴェール」を外そうとする者である。だが、いまだ彼女は相変わらず「穢れのない乙女」である。

 この文面では、「3:女帝」も「2:高等女司祭」も、イシス神の姿であると考えられます。
  ・ヴェールを被ったイシス = 「2:高等女司祭」 … 神秘性が高い
  ・ヴェールを脱いだイシス = 「3:女帝」 … 神秘性が低い

 しかしながら、現世に近い領域にいる彼(皇帝)は、絶対神の領域にいるイシス神には、簡単には近寄れないということですね。
 しょせん、男と女では、住む世界が違うのですから。(笑)

It should be understood that this card and that of the Empress do not precisely represent the condition of married life, though this state is implied.
このカードと「女帝」は、厳密には結婚生活の状態を表わさないということを理解しなければならない。とは言うものの、この状態は暗示されているものである。

 つまり、この皇帝は、厳密にはイシス神の妻であるオシリス神とは同一視できないということです。
 ただし、これは暗示とされているので、全くの他人ということではなく、表面的には夫婦として振る舞うこともあるみたいですね。

On the surface, as I have indicated, they stand for mundane royalty, uplifted on the seats of the mighty; but above this there is the suggestion of another presence.
表面的には、私が示してきたように、彼ら(女帝と皇帝)は、権力の座が高められた現世での王権を表している。しかし上記のこうした考え方は、もう一つの存在を暗示している。

 表面的というのは、たぶん「今までの一般的・通俗的解釈の範囲内」ということで、こういう解釈では、ウェイト氏は不満なようですね。
 さて、もう一つの暗示とは?

They signify also--and the male figure especially--the higher kingship, occupying the intellectual throne.
この二枚、特に男性の姿(=皇帝)は、知性の王座に就くことで、より高い王位を意味するのである。

 王位というのは、いわゆる「権力」に他ならないのですが、女帝と皇帝は、主として知性面での支配力を持ち、特に皇帝の方がその意味合いは大きいという意味になりますね。
 皇帝の支配力は、物質面というよりも、知性面にあります。
 表面的な支配ではなく、知性面で内面から支配するという感じになりますね。

Hereof is the lordship of thought rather than of the animal world.
それゆえ、肉体的な世界ではなく、思考的な(世界での)統治なのである。

 「animal world/肉体的な世界」というのは、人間の獣性や物質的な面に関する話になります。
 皇帝は、そういう肉体面については、直接的には関与しないとうことですね。

Both personalities, after their own manner, are "full of strange experience," but theirs is not consciously the wisdom which draws from a higher world.
二つの人格(=女帝と皇帝)は、彼ら自身の方法に従って、「不思議な経験で満ちている」のであるが、そこには高次の世界から引き下ろされた叡智の意識はない。

 「full of strange experience/不思議な経験で満ちている」というのは、神秘体験とか神秘知識といったものです。
 でも、そこにあるのは、「絶対神が存在する高次世界」のものではなく、一段低いレベルのものであると、ウェイト氏は考えているようですね。

The Emperor has been described as (a) will in its embodied form, but this is only one of its applications, and (b) as an expression of virtualities contained in the Absolute Being--but this is fantasy.
「皇帝」はこれまで次のように描かれてきた。
 (a) 肉体に秘められた意志であるが、これは表面的な意味の一つでしかない。
 (b) 「絶対者(=神)」を含んだ実質の表現。しかしこれは幻想である。

 まあ、今までの解釈は、いずれも間違っている、という主張ですね。
 そういう意味では、皇帝って、かなり「どっちつかず」の立場なのですが、それでも「現世での最高権力者」である皇帝は、強力な潜在パワーを持っていますので、その解釈には十分な注意が必要なのです。


BACK HOME NEXT
inserted by FC2 system