ライダーウェイト・タロット解説

VII The Chariot / 戦車



クリックで拡大

An erect and princely figure carrying a drawn sword and corresponding, broadly speaking, to the traditional description which I have given in the first part.
大雑把に言って、私が第一章で述べた伝統的な解説に対応した、抜き身の刀を携え、直立した威厳のある人物。

 「drawn sword/抜き身の剣」というのは、鞘から抜かれた状態の剣のことで、いつでも戦える状態にあるということですね。
 ただし、このイラストでは、兵士の持つ剣ではなく、指導者の持つ笏(しゃく)となっています。まあウェイト氏の勘違いは良くあることですけど・・・。
 で、どちらが正解かというと、実は剣と笏のどちらの説もありますので、どちらとも言えないという状態です。

 ちなみに、戦車の前面にあるコマのようなものは、インドのヒンドゥー教で使われるシンボルであるリンガム(linga, 男根)とヨニ(yoni, 女陰)がモチーフです。
 また、その上の翼の生えた球体は、エジプトの飛翔球がモチーフとなっています。
 このあたりは、ウェイト氏の発案ではなく、それ以前からある伝統的なものが基本となっています。

On the shoulders of the victorious hero are supposed to be the Urim and Thummim.
勝利の英雄の肩の上には、「ウリムとトンミム」と思われるものが載っている。

 「Urim and Thummim/ウリムとトンミム」は、『旧約聖書:出エジプト記』28:30の「裁きの胸当てにはウリムとトンミムを入れる。それらは、アロンが主の御前に出るときに、その胸に帯びる。アロンはこうして、イスラエルの人々の裁きを、主の御前に常に胸に帯びるのである。」によります。
 アロンという人物は、『旧約聖書:出エジプト記』において、モーセと共にヘブライの民を神との約束の地へと導く指導者です。


クリックで拡大

裁きの胸当てを付けたアロン像

 とはいえ、アロンは剣を持つ兵士ではなく、笏を持つ司祭でしたので、この「victorious hero/勝利の英雄」は、アロンの姿そのものというわけではないようですね。
 アロンの意志を受け継いだ、さらなる英雄といった感じでしょうか。

He has led captivity captive; he is conquest on all planes--in the mind, in science, in progress, in certain trials of initiation.
彼は監禁状態の捕虜を導き、彼は、精神・科学・進歩・入会のある種の試練など、すべての面における征服である。

ここは、バビロニアの補因を連想させますね。
 『旧約聖書:出エジプト記』6:13の「そこで主はモーセとアロンに語り、イスラエル人をエジプトから連れ出すため、イスラエル人とエジプトの王パロについて彼らに命令された。」

He has thus replied to the sphinx, and it is on this account that I have accepted the variation of Eliphas Levi; two sphinxes thus draw his chariot.
その結果として、彼はスフィンクスに答え、そしてこの理由により、私はエリファス・レヴィによる変更を受け入れた。こうして、2頭のスフィンクスが彼の戦車に描かれている。

 戦車の人物は、世界の征服者であり、スフィンクスにも負けない知恵と勇気を持つ者です。
 スフィンクスは彼に問答で負けて、彼の従者となったのでした。
 レヴィ氏は、『高等魔術の教理と祭儀』の中で、戦車のカードについて詳細に説明しており、ライダーウェイト版は、このレヴィ説に基づいたデザインとなっています。
 ただし、比べてみると細かいところで違いがありますので、そういう考え方の違いを見比べるというのも面白いです。


クリックで拡大

レヴィ氏の『高等魔術の教理と祭儀』より「戦車」

He is above all things triumph in the mind.
彼は、精神におけるあらゆる面での勝利者である。

 戦車の人物は、物質的世界の征服者ではなく、精神的世界の征服者ということですね。

It is to be understood for this reason (a) that the question of the sphinx is concerned with a Mystery of Nature and not of the world of Grace, to which the charioteer could offer no answer; (b) that the planes of his conquest are manifest or external and not within himself; (c) that the liberation which he effects may leave himself in the bondage of the logical understanding; (d) that the tests of initiation through which he has passed in triumph are to be understood physically or rationally; and (e) that if he came to the pillars of that Temple between which the High Priestess is seated, he could not open the scroll called Tora, nor if she questioned him could he answer.
それは、次の理由によって理解することができる。
(a) スフィンクスの出す問題は、戦車に乗る人間は答えることができない「神」の世界に関するものではなく、「自然界の神秘」に関係しているということ。
(b) 彼の征服するものとは、可視的あるいは外的なものであり、彼自身の内側に存在するものではないということ。
(c) 彼のもたらす解放とは、論理的な理解という枠に彼自身を縛ることになる可能性があるということ。
(d) 彼が勝利を収めた入門試験は、物質的あるいは合理的に理解されるべきものであるということ。
(e) もし彼が柱の真ん中に「高等女司祭」が座っている「寺院」を訪れたとしたら、彼は「トーラー」と呼ばれている巻物を開くことができなかったであろうし、彼女が彼に質問をしたとしても彼は答えることができなかったであろうということ。

 「Mystery of Nature/自然界の神秘」というのは、この物質界のことであり、「world of Grace/神の世界」は「至高の三角形」に属するカード(「0:愚者」、「1:魔術師」、「2:高等女司祭」、「3:女帝」)の持つものです。

He is not hereditary royalty and he is not priesthood.
彼は世襲の王族でもないし、司祭職の人間でもない。

 戦車の人物は、そう単純な役割を持つ者ではないということでしょうか。

 ちなみに、アロンという人物は、指導者ではありましたが、王ではありませんでした。
 そして、最初の司祭(儀式を執り行うことの出来る者)ではありましたが、エジプトを出た直後はまだ司祭職に就いていたわけでもありませんでした。

 アロンは、立派な指導者ではありましたが、神様を怒らせるようなことをしたために、微妙な立場なのでした。


BACK HOME NEXT
inserted by FC2 system