ライダーウェイト・タロット解説

VIII Strength, or Fortitude/ 力、もしくは剛毅



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 日本語でいう「力」に相当する英語には、色々あります。
 このカードのタイトルである「Strength/力」というのは、どちらかというと内的な力、つまり知力や精神力、耐久力などを表します。
 また、「Fortitude/剛毅」とは、不屈で強靱な体力・精神力、勇猛果敢な強い態度などを表します。
 一方、古いタイプのカードには「Force/力」と書かれたものもありますが、これは外的な力、つまり物理的な力、腕力、武力などを表します。
 ウェイト氏が Strength を選んだのは、今までの流れからすると、ごく当然のことでしょうね。

A woman, over whose head there broods the same symbol of life which we have seen in the card of the Magician, is closing the jaws of a lion.
「魔術師」のカードで見た生命のシンボルと同じものを頭上に抱いた女性が、ライオンの顎を閉じている。

 見たままの説明文ですね。
 なお、頭上にある生命の象徴である∞と、ライオンの口を閉じるという記述は、レヴィ氏の『高等魔術の教理と祭儀』にあります。

The only point in which this design differs from the conventional presentations is that her beneficent fortitude has already subdued the lion, which is being led by a chain of flowers.
この図案が伝統的な表現と異なっている唯一の点は、彼女の慈善心に富んだ不屈の精神が、既にライオンを鎮圧しており、それ(ライオン)は、花の鎖で繋がれ導かれている。

 凶暴だったライオンは、(従来の図案の)物理的な力ではなく、女神の精神力みたいなもので粗暴さを抑えられて支配され、首に花の鎖をつけられて、完全に飼い犬になってしまいました。
 ちなみに、この花は赤いバラのように見えますので、ここにも魔術師のカードとの共通点が見られます。

 あと、この花の鎖は、『旧約聖書:箴言』1:9の「それらは、あなたの頭の麗しい花輪、あなたの首飾りである。」の部分に関係しているかもしれません。

 ちなみに、箴言とは、『旧約聖書:箴言』1:2-4の「知恵と訓戒とを学び、悟りのことばを理解するためであり、正義と公義と公正と、思慮ある訓戒を体得するためであり、わきまえのない者に分別を与え、若い者に知識と思慮を得させるためである」ということですので、この図のイメージに似ています。

For reasons which satisfy myself, this card has been interchanged with that of Justice, which is usually numbered eight.
私自身が納得している理由で、このカードは、通常は8の番号が付けられる「正義」のカードと交換された。

 ウェイト氏は、ここで大胆な入れ替えを行いましたが、この入れ替えはゴールデン・ドーンの暗号文書の受け売りです。

As the variation carries nothing with it which will signify to the reader, there is no cause for explanation.
この変化は、読者にとって重要な意味は持たないので、説明をする理由はない。

 ここでの「reader/読者」とは、タロット占いに関する読者を指しています。占いをする上では、このような順序の入れ替えは、大した意味は持っていないということですね。
 入れ替えたのは、それなりに重要な意味があったからなのですが、それは占いの意味には無関係であり、魔術上での意味ということです。

 ゴールデン・ドーンでは、この「力」が獅子座に、そして「正義」が天秤座に配属されました。
 この順序で従来の番号体系でカードを並べていくと、奇妙なことに「ねじれ」が出てくるのです。
 そのねじれを解決するために、カードの順番を入れ替えたということです。

占星術 従来(マルセイユ版) ライダーウェイト版
白羊宮(おひつじ座) 「4:皇帝」 「4:皇帝」
金牛宮(おうし座) 「5:法皇」 「5:法皇」
双児宮(ふたご座) 「6:恋人たち」 「6:恋人たち」
巨蟹宮(かに座) 「7:戦車」 「7:戦車」
獅子宮(しし座) 「11:力」★ 「8:正義」
処女宮(おとめ座) 「9:隠者」 「9:隠者」
天秤宮(てんびん座) 「8:正義」★ 「11:力」
天蠍宮(さそり座) 「13:死」 「13:死」
人馬宮(いて座) 「14:節制」 「14:節制」
磨羯宮(やぎ座) 「15:悪魔」 「15:悪魔」
宝瓶宮(みずがめ座) 「17:星」 「17:星」
双魚宮(うお座) 「18:月」 「18:月」
Fortitude, in one of its most exalted aspects, is connected with the Divine Mystery of Union; the virtue, of course, operates in all planes, and hence draws on all in its symbolism.
剛毅(力)は、最高位の様相の一つにおいては、「結合の神聖なる神秘」と関係している。もちろん、その徳というのは、全ての次元で作用し、それゆえその象徴的意味において全ての面で利用している。

 ウェイト氏は、ここでは力のカードを「剛毅/Fortitude」と呼んでいますが、これは以前の呼び方です。
 ちなみに、「結合の神聖なる神秘/Divine Mystery of Union」というのは、この「力」のカードの「カバラの生命の木」における位置づけ(ケセド=ゲブラー)にも関係していると思われます。

 そして「virtue/徳」というのは、古代ギリシャの哲学者であるプラトンが『国家』の中で論じた「cardinal virtues/基本的な徳」である「Prudence/思慮分別」、「Justice/正義」、「Temperance/節制」、「Fortitude/剛毅」のことを指し、その「Fortitude/剛毅」が、この「8:力」のカードに関係しているということです。

It connects also with innocentia inviolata, and with the strength which resides in contemplation.
またそれは、「汚れ無き清らかさ」や、熟慮(瞑想)に存在する力にも結びつけられている。

 「汚れ無き清らかさ/innocentia inviolata」とは、もちろん外見ではなくて、内面のことですよね。
 清らかな心で、じっくりと考えること。これが本当の「力」になるということです。

These higher meanings are, however, matters of inference, and I do not suggest that they are transparent on the surface of the card.
しかしながら、これらのより高位の意味は推論で得たものであり、私はそれらがカードの表面から透けて見えるなどと示唆しない。

 要するに、単純にカードの絵を見ているだけでは、隠された本当の意味は分からないよ、と言うことであり、それなりに理解するには、魔術の知識が必要になるということです。

They are intimated in a concealed manner by the chain of flowers, which signifies, among many other things, the sweet yoke and the light burden of Divine Law, when it has been taken into the heart of hearts.
それら(高位の意味)は花の鎖によって隠された方法で暗示されており、それ(花の鎖)は、心の奥底に連れていったとき、他の多くのものの中で、甘い束縛、および「神の法」の軽い負担の中を意味する。

 花の鎖は、冷たくて強固な鉄の鎖と比べれば、柔らかくて心地よい束縛という感じですよね。
 物理的な支配というより、運命的で精神的な支配です。

The card has nothing to do with self-confidence in the ordinary sense, though this has been suggested--but it concerns the confidence of those whose strength is God, who have found their refuge in Him.
カードは、通常の意味においては、自信とは無関係であるが、これは暗示されている。…しかしこれは、神の中に自分達の避難所を見つけた人々が、自分の強さが「神」であるという信頼に関することである。

 「self-confidence/自信」というような、自力で発揮できる精神力は、このカードには明示的には含まれていないということですね。
 要するに、真の強さ=力とは、「神の信仰」により発揮されるものだよ、と言いたいわけですかね。

There is one aspect in which the lion signifies the passions, and she who is called Strength is the higher nature in its liberation.
ライオンが受難(情熱)を意味するという見方があり、「力」と呼ばれる彼女はその解放において、より高い生命力を持つ者である。

 つまり、ライオン退治の試練を与えられたヘラクレスみたいな立場にあるとの考え方も、一部にはあるよ、と言いたいわけですかね。

It has walked upon the asp and the basilisk and has trodden down the lion and the dragon.
それは、エジプトコブラとバシリスクの上を歩き、ライオンとドラゴンを踏みつぶした。

 これって、まるっきり、女版のヘラクレスですね。


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