ライダーウェイト・タロット解説

XIV Temperance / 節制



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 この節制のカードは、昔から錬金術との関連性について言われています。
 もちろん、ウェイト氏も、このカードに錬金術ネタを絡めてきています。

A winged angel, with the sign of the sun upon his forehead and on his breast the square and triangle of the septenary.
額には太陽の記号を、胸には7を意味する四角形と三角形を付けた、翼のある天使。

 さて、いきなり最初から、錬金術ネタですね。円、三角、四角、そして7という数字は、どれも錬金術にとって重要な象徴です。

 太陽の記号は、占星術でおなじみの、円の中心に点のマークです。
 円は角の無い「完全」な形の象徴であり、太陽は錬金術では最高の金属である「金」に対応しており、この天使の頭部は輝いています。つまり、この天使は最高で完全なる者ということですね。

 胸にある三角形は、錬金術の三原質、すなわち硫黄と水銀と塩(えん)であり、この中で硫黄と水銀が物質の正反対な性質を象徴するものとして、錬金術においては重要視されています。

 また、胸にある四角形は、四大元素であり、錬金術においても、地と火と水と風を象徴します。

 そして、三角と四角を足した7という数字は、錬金術の七金属と占星術の七天体を象徴し、この世界の構成要素となります。

七金属 七惑星
太陽
火星
水銀 水星
木星
金星
土星

 なお、この翼のある天使は、ウェイトライダー版のカードにおいては、大天使ミカエルであると考えられています。
 ついでに言うと、この大天使のチュニックの胸元のしわは、聖四文字となっていて、この天使が神に近い存在であることを象徴しています。
 ウェイト氏は、なぜかミカエルがお気に入りで、「7:恋人たち」と「20:審判」でも、ミカエルらしき天使像を登場させていますね。

I speak of him in the masculine sense, but the figure is neither male nor female.
私は彼について、男性的な感覚で述べるが、しかし、その人物は男性でもなく女性でもない。

 天使とは本来、男性とか女性というような性別を持たない存在(大天使ガブリエルは女性の姿)ですが、これがミカエルであれば、外見的には男性の姿であるのは自然です。

It is held to be pouring the essences of life from chalice to chalice.
それ(天使)は、聖杯から聖杯へと生命のエッセンスを注ぎ続けたままである

 「essences of life/生命のエッセンス」とは、生命体と単なる物質とを区別する、生命の霊的な中核部分を指します。
 で、この天使は、ずっとこのままの姿で、未来永劫にわたって、聖杯から聖杯へと生命のエッセンスを注ぎ続けるということですね。

 では、この天使は何をしているのでしょうか。
 錬金術師として有名なパラケルススの理論によると、この世界にある資源の全ては「第一質量」が根源となっていて、これが女性的原理と男性的原理に分かれ、この男性原理と女性原理の結合によって、三原質が作られ、それから四大元素が作られ、さらに七金属や七天体が作られるということです。
 つまり、この天使は、「第一質量」をこねくり回して、この我々の世界にある全ての物質の源泉となる作業を象徴しているという見方ができますね。

第一質量 硫黄 男性 能動 不揮発性
水銀 女性 受動 揮発性

 ちなみに、この天使像のモチーフですが、古代ギリシャにおける混酒(ワインに水を混ぜる)の姿ではないかとも言われています。
 古代ギリシャでは、水で希釈しないワインを飲む人物は、節度と徳に欠けた大酒飲みと見なされており、通常の宴では、参加者が深酒にならないよう、水で薄めたワインが出されていました。
 つまり、節制という言葉にピッタリの行為ですよね。(笑)


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ワインに水を混ぜる像

It has one foot upon the earth and one upon waters, thus illustrating the nature of the essences.
それ(天使)は、一方の足を大地におき、一方は海においている。このように、エッセンスの本質を図解している。

 左足下にある大地は「地」の「硫黄」。
 右足下にある海は「水」の「水銀」。
 見えないけれど、周囲にあって「天使の翼」で象徴される空気は「風」の水銀。
 そして最後の、「火」の「硫黄」は、「火」を象徴する大天使ミカエル。

 さすが、見事に四大元素が揃っていますね。
 なお、「火」を象徴するミカエルは、「火」に配属される「20:審判」のカードにも登場します。

 参考までに・・・。
 天使の右にあるのは、「Iris/アヤメ」です。
 これは、ギリシャ神話のイーリス(Iris)女神を象徴していると思われます。
 イーリス女神は海と空を司る「虹の女神」で、伝令者(ヘルメス)の杖と水差しを持ち、翼のある若い女性として描かれます。彼女は、水差しで海から水を汲み、雲へと注ぎ、この世界を水で満たします。
 個人的には、ミカエルよりは、このイーリス女神の方が、このカードの象徴に合っているようにも思えますが、ウェイト氏は、ミカエルの方がお気に入りだったようですね。


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イーリス女神(もしくはニケ女神かも)

A direct path goes up to certain heights on the verge of the horizon, and above there is a great light, through which a crown is seen vaguely.
真っすぐな道が、地平線の間際のある高台へと登っている。そして、その上には巨大な光があり、それを通して、王冠がぼんやりと見える

 両側の山に挟まれた道と、その上にある光という構図は、生命の木の象徴ですね。
 光がわざわざケテルを象徴する王冠の形というのも、モロです。

 錬金術自体は、物質化に関するもので物理界に近い存在ですが、生命の木は、神に関するものなので、その上位世界となります。
 つまり、このカードは、「この世」と「あの世」の境界とも言える存在であり、「12:吊られた男」、「13:死」とともに、この「14:節制」は、境界領域というものを示すカードとなります。

 「12:吊られた男」や「13:死」による転生は大変そうに見えますが、この「14:節制」による転生は、それほど大変そうには見えません。優れた大天使により導かれ、その偉大なる錬金術のテクニックにより変成・純化されて転生し、生命の木を辿るということになりそうです。
 ちなみに、生命の木では、この節制のカードは「6:ティファレト」から「9:イェソド」に至る中央の柱にあるパスに配属されており、「1:ケテル」に至る直線ルートになっています。

Hereof is some part of the Secret of Eternal Life, as it is possible to man in his incarnation.
これについては、人が人としての顕現が可能となる時に、「永遠の生命の神秘」のある部分である。

 生命の木は、「Secret of Eternal Life/永遠の生命の神秘」の象徴であり、精神世界の基礎を生み出します。
 そして、物理世界を生み出すものの象徴として、錬金術の天使がいて、そこから肉体を持つ人間を含む物理世界が生まれるというイメージですかね。
 そして、その肉体を持つ人の内部には、この永遠の生命の神秘が隠されていると。

All the conventional emblems are renounced herein.
すべての伝統的な寓意画は、この中に廃棄される。

 従来の節制のカードは、錬金術の象徴がメインで単純な意味だったけれども、この中に生命の木を取り入れることによって、昔とは全くレベルの違うものを作り上げたという、ウェイト氏の自慢です。

 そりゃまあ、物理界に近い錬金術と、神界の象徴である生命の木を比べれば、
  生命の木>>>>>>(超えられない壁)>>>>>>>>>錬金術
ですからね。

So also are the conventional meanings, which refer to changes in the seasons, perpetual movement of life and even the combination of ideas.
季節の変化、生命の永遠の活動、およびそれらの考え方の組合せさえについて指す従来の意味も、またそうである

 とことん昔のオカルティストの解釈を否定していますよね。
 オレの解釈の方が新鮮で偉くてカッコイイということを自慢しているのです。(笑)

It is, moreover, untrue to say that the figure symbolizes the genius of the sun, though it is the analogy of solar light, realized in the third part of our human triplicity.
さらに、この人物が太陽の特質を象徴すると言うことは真実ではない。とはいえ、それは、太陽の光の類推であり、我々人間の三重であることの第3の部分で認識される。

 「この人物が太陽の特質」というのは、過去のオカルティストが言及していることで、たとえばポール・クリスチャン氏は『魔術の歴史と実践』の中でこの人物を「太陽の精霊」と呼んでいますが、さっそくそれを否定しています。(笑)

 さて、「人間の三重であることの第3の部分」というのは、以下のように色々な意味が考えられます。
 この文章だけでは、どれが確定的とは言えませんが、ウェイト氏の考えることですので、おそらく人間として最も高い領域という意味で使ったのではないかと推測します。

(1)3つの世界
 ポール・クリスチャンは『魔術の歴史(英語訳は「魔術の歴史と実践」)』の著書の中で、この世界を「divine world/神界」、「intellectual world/知識界」、「physical world/物理界」に分類しています。
(2)生命の木における3つの分類(Order)
 10個のセフィロトから構成される生命の木の内部は、3つの分類方法と、4つの分類方法があります。
 そのうち、3つの分類は、魔術団(ゴールデンドーン)の位階制度において、「Order/団」という分類になっています。
 ・First order(第1団) = 外陣(アウター)
   10:マルクト = Zelator(ジェレーター:熱心者)
   9:イェソド = Theoricus(セオリカス:理論者)
   8:ホド = Practicus(プラクティカス:実践者)
   7:ネツァク = Philosophas(フィロソファス:哲人)
 ・Second Order(第2団) = 内陣(インナー)
   6:ティファレト = Adeptus Minor(アデプタス・マイナー:小達人)
   5:ゲブラー = Adeptus Major(アデプタス・メジャー:大達人)
   4:ケセド = Adeptus Exemptus(アデプタス・イグセンプタス:被免達人)
 ・Third Order(第3団)
   3:ビナー = Magister Templi(マジスター・テンプリ:神殿の首領)
   2:コクマー = Magas(メイガス:魔術師)
   1:ケテル = Ipssisimas(イプシシマス)
(3)錬金術の三原質の塩(Salt)
 硫黄(火)と水銀(水)という相反する性質を持つ原質を結びつけるための第三の原質。
 もちろん、それ以外にも色々と作用はあるみたいですが、なんか色々と混乱しててよくわからないので割愛。
(4)キリスト教における三位一体(Trinity)
 3という数字で代表的なのは、この父と子と聖霊(Father, Son, and Holy Spirit)というやつですね。
 ただし、この場合はニュアンス的に微妙ですが。

It is called Temperance fantastically, because, when the rule of it obtains in our consciousness, it tempers, combines and harmonises the psychic and material natures.
それは、すばらしくも「節制」と呼ばれている。というのは、我々の意識(自覚)がその法則を得たとき、それは、精神的で物質的な性質を調節し、結合し、調和させるからである。

 要するに、生命の木の知識を得ることにより、錬金術はさらに高い次元の操作へと拡張されるという考えですかね。
 錬金術の「金」への到達というイメージは、黄金色に輝く「6:ティファレト」への到達へと導く節制のパスと、良く合っています。

Under that rule we know in our rational part something of whence we came and whither we are going.
その法則のもとで、我々は、我々の理性的な部分で、我々がどこから来たか、そして、我々がどこへ行っているかということについて、いくつかのことを知っている。

 「その法則」というのは、錬金術よりも生命の木の法則の方ですかね。
 節制のパスは、地上に近い「9:イェソド」から上位界の「6:ティファレト」まで回り道をせずに中央の柱を一気に上っていますので、色々と重要なものを含んでいます。
 それを知ることは、魔術に限らず、人生においても重要なことだと思います。

 え、オマエはそれを知ってるか、だって?
 知ってても、他人にはそう簡単には言えないのが、神秘の知識ってもんですよ。(笑)


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