ライダーウェイト・タロット解説

V The Hierophant / 法王



クリックで拡大

 皇帝が、「地上での最高権力者」でしたので、法王は「地上での最高宗教権力者」になりそうですが、さてどうでしょうか。

He wears the triple crown and is seated between two pillars, but they are not those of the Temple which is guarded by the High Priestess.
彼(法王)は三重冠をかぶり、二本の柱の間に座っているが、その柱は「高等女司祭」に守られた「神殿」のそれ(二本の柱)ではない。

 「triple crown/三重冠」は、ティアラ(Tiara)とも呼ばれます。
 三重の冠は、三位一体を象徴するとか、神の王国の3つの段階とか、司祭・司牧・教導の三権を示す、などの様々な象徴として考えられています。

 なお、高等女司祭の神殿には、ソロモン王の神殿の象徴である二本の柱(ヤキンとボアズ)がありますが、これは地上界にある神殿ではなく、天上界、絶対神世界のものです。
 一方、法王のいる神殿は、より低次の世界にある神殿ですので、法王のカードにある二本の柱は、高次の秘教的意味よりも、より低次な顕教的意味の方が大きいと考えられます。

In his left hand he holds a sceptre terminating in the triple cross, and with his right hand he gives the well-known ecclesiastical sign which is called that of esotericism, distinguishing between the manifest and concealed part of doctrine.
彼は左手に三重の十字架を端につけた笏を持ち、彼の右手は秘教のサインと呼ばれる有名な聖職者のサインを(弟子に対して)授けており、教義の明示されている所と隠されている所を区別している。

 「triple cross/三重の十字架」は、教皇十字(Papal Cross)とも呼ばれ、教皇のみが使うことのできる十字架です。
 笏(しゃく)というのは、支配と権威の象徴ですね。女帝や皇帝も笏を持っていますが、ここでは支配者というよりも、権威者としての意味合いがあります。

 右手のサインは、神の祝福を表すサインです。祝福のサインには、掌を見せて親指と人差し指と中指を伸ばして残りの指を掌の方に曲げて接する(親指を曲げる場合もある)ラテン型(benedictio latina)と、親指と薬指を掌の方に接して他の指を伸ばすギリシャ型(benedictio greca)の2種類がありますが、ここではラテン型の祝福のサインとなっています。

It is noticeable in this connexion that the High Priestess makes no sign.
「高等女司祭」が何もサインを出していなかったこととの関係は注目に値する。

 高等女司祭の右手は、TORAの巻物(scroll)と外套(mantle)により隠されています。つまり、人が教義として知ることのできないものを表現していると思われます。

At his feet are the crossed keys, and two priestly ministers in albs kneel before him.
彼の足元には交わった鍵があり、アルパ(白麻の祭服)を着た使いの司祭二人が彼の前でひざまづいている。

 「alb/アルバ」は、ミサに聖職者などが着用する白麻の長い祭服のことです。
 一人は、赤いバラの祭服、もう一人は白いユリの祭服であり、赤いバラは殉教、白いバラは清純を表しています。
 赤いバラと白いユリのモチーフは、「1:魔術師」のカードにもありましたが、これは魔術団体ゴールデン・ドーンの参入儀式にも用いられるそうです。

 足元にある2つの鍵は、天国の扉を開く鍵としてイエスから授けられたもので、銀の鍵は現世的な権威を、金の鍵は宗教的な権威を示してしているとされ、教皇のシンボルにもなっています。
 『新約聖書:マタイの福音書』16:19に「わたしはあなたに天の国の鍵を授ける。あなたが地上でつなぐことは、天上でもつながれる。あなたが地上で解くことは、天上でも解かれる。」とキリストが使徒ペテロに告げ、そのためにペテロは天国の門の門番とされています。
 そしてカトリックでは、このペテロが初代ローマ教皇とされています。


クリックで拡大

教皇の紋章
(教皇庁の紋章は、鍵が左右が入れ替わっていることに注意)


クリックで拡大

聖ペテロへの天国の鍵の授与:ペルジーノ

He has been usually called the Pope, which is a particular application of the more general office that he symbolizes.
彼は一般に「教皇」と呼ばれてきたが、これは、教皇の行う一般的な祈祷の中でも特別な志願者儀式を象徴している。

 「Pope/教皇」は、キリスト教の最高権威者ですが、ここではより高い意味を持たされているようです。
 この図はどうやら、一般的な宗教儀式ではなく、神殿における参入儀式のようですね。
 あちこちに3というシンボルがありますが、これは「父と子と聖神の名によって」洗礼を行うという、「三位一体」の考えを類推させます。

 なお、ゴールデン・ドーンの志願者参入儀式にも、これと同じような配置が見受けられます。中央にハイエロファント、左にハイエルース、そして右にヘゲモンという構図ですね。

He is the ruling power of external religion, as the High Priestess is the prevailing genius of the esoteric, withdrawn power.
彼は、宗教の外的な部分(人間が理解できる部分)の権力者であり、一方、「高等女司祭」は(天から)引き下ろされた力を持つ秘教の守護神なのである。

 結果的に、法王と高等女司祭は、次元の違う世界でそれぞれの領域を支配しているという感じですね。

The proper meanings of this card have suffered woeful admixture from nearly all hands.
このカードの正しい意味は、様々な人の手によって、悲惨なほど混ぜ合わされている。

 要するに、ウェイト氏は、メチャクチャな意味になっていますな、と言いたいわけです。

Grand Orient says truly that the Hierophant is the power of the keys, exoteric orthodox doctrine, and the outer side of the life which leads to the doctrine; but he is certainly not the prince of occult doctrine, as another commentator has suggested.
グランド・オリエント氏は、「法王」は、鍵の力(教皇権)や、部外者にも分かる正統な教義、教義へと導く魂の外側の面であると適切に述べている。しかし、彼(法王)は他の(タロットの)注釈者が示しているような隠された教義の王でないことは確かである。

 「Grand Orient/グランド・オリエント」は、ウェイト氏の占い関係の本を書くときのペンネームです。
 厚かましくも、「オレが言ってることだから正しい」と、自演しててるわけですな。
 ちなみに、「another commentator/他の注釈者」というのは、ポール・クリスチャン氏ではないかと思われます。

 さて、「the power of the keys/鍵の力(教皇権)」は、天国への鍵という意味で、人が開くことの出来る領域を見るための鍵です。

 その一方で、「2:高等女司祭」には鍵はなく、ヴェールに包まれたままの存在です。これは、人の手には到達できない秘教の部分となります。
 結局ここも、高等女司祭と法王の違いについて、しっかりと述べている部分ですね。

He is rather the summa totius theologia, when it has passed into the utmost rigidity of expression; but he symbolizes also all things that are righteous and sacred on the manifest side.
すなわち、最も厳密な表現をすれば、彼は確かに「全ての神学の最高位」ではあるが、そのほかにも顕教における高潔さ、神聖さの全てを象徴している。

 「summa totius theologia/全ての神学の最高位」というのは、キリスト教世界における法王の立場を表すものです。

 「manifest side/顕教」というのは、人間により理解しうる範囲のものであり、到達可能な世界を象徴しています。我々人間が目指す最高点ということですかね。

As such, he is the channel of grace belonging to the world of institution as distinct from that of Nature, and he is the leader of salvation for the human race at large.
そのように、彼は「創造主」の世界とは異なる、法の世界に帰属する恩寵の導き手であり、そして彼は人類全体を救済する指導者である。

 何度も繰り返して述べられていますが、「the world of institution/法の世界」は法王の支配する領域であり、「the world of Nature/創造主の世界」は「2:高等女司祭」(および至高の三角形を形成する「0:愚者」、「1:魔術師」、「3:女帝」)の支配する領域です。
 そして、人類の救済に関わるのは、法王の領域ということですね。

He is the order and the head of the recognized hierarchy, which is the reflection of another and greater hierarchic order; but it may so happen that the pontiff forgets the significance of this his symbolic state and acts as if he contained within his proper measures all that his sign signifies or his symbol seeks to shew forth.
彼は一般に認知された位階制度の律法であり、またその長であり、それは別のさらに大きな位階制度の反映なのである。しかし大祭司(法王)は、この彼の示すサインの持つ彼本来の手段の全てや、彼のシンボルが前方を教えようとする中に含まれているかのような、この彼の象徴的な高い位階と行為の重要性を忘れてしまっている。

 「recognized hierarchy/一般に認知された位階制度」とは、一般の人間が理解できる範囲のルールで定義された順位付けという感じです。で、その順位のトップに立つのが、この法王のポジションということですね。
 そして、人間世界のルールというのは、カバラ的には最下層(アッシャー界)に属するものであり、その上位世界(アツィルト界、ブリアー界、イェツィラー界)の位階制度をそのままパクってきているいうことも述べているようですね。

 ここで、「the pontiff/大祭司(法王)」という言葉が使われていますが、これは従来のタロットカードの法王を指すものであると思われます。つまり、以前の解釈は、法王の真の姿をきちんと描写していないと言っているわけですね。

He is not, as it has been thought, philosophy-except on the theological side; he is not inspiration; and he is not religion, although he is a mode of its expression.
これまで考えられてきたように、彼は(神学的なものを除いた部分での)哲学を表すわけでも、直感を表すわけでも、宗教を表すわけでもない。たとえ彼がそれらの表現の様式であったとしてもだ。

 法王のカードには、個々の神学的思想体系が具体的に表現されているけれども、それはあくまでも絵として具現化しなければならなかったというわけであって、あくまでも象徴的表現として理解されなければならないというわけです。
じゃあ、一体何なのか、ということには、はっきりとは答えてくれないのが、ウェイト氏なんですよね。
 まあ、言葉ではきちんと表現できないというのもあるんでしょうけど。


BACK HOME NEXT
inserted by FC2 system