ライダーウェイト・タロット解説

XVI The Tower / 塔



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 夜中、高い山の頂にそびえ立つ四角の塔に、天からの稲妻が落ちて燃え上がり、2人の人間が落下している構図です。
 塔の頂上には王冠があり、これはカバラの生命の木のケテル(王冠)を表し、稲妻は、生命の木を貫く稲妻を模しています。 


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生命の木を貫く稲妻

 なお、塔に窓が3つあるのは、キリスト教における三位一体に基づくもので、宗教的な意味があると考えられています。

Occult explanations attached to this card are meagre and mostly disconcerting.
このカードに結びつけられたオカルトの説明は、不十分で、たいていは混乱している。

 ウェイト氏、いつものパターンから入りましたね。
 従来説では、これは『旧約聖書:創世記』に出てくるバベルの塔で、神の雷を受けて落下しているのは、神に対抗する目的で塔の建設を命じた、バベルの王「ニムロデ」とその家来ではないかというものが多いですね。

It is idle to indicate that it depicts ruin in all its aspects, because it bears this evidence on the surface.
それ(従来の解釈)が、すべての局面について破滅を表していると示していることは、何の根拠もない。なぜなら、それは表面的なものを示しているのにすぎないからである。

 まあ、大アルカナ(大きな神秘)ですので、見たままの意味ではマズいのは確かですよね。
 もっと深い意味で解釈してあげないと、見せかけの罠につかまります。

It is said further that it contains the first allusion to a material building, but I do not conceive that the Tower is more or less material than the pillars which we have met with in three previous cases.
さらに、それは物質的な建築物についての最初の間接的言及を含むと言われている。しかし私は、「塔」が私たちが3つの前の事例で出会った「柱」より多少物質的であるとは考えていない。

 この3つの柱とは、神殿の柱の図案がある、「2:高等女司祭」、「5:法王」「11:正義」のものですね。
 確かにそれらの神殿の柱と比べると、この「16:塔」の建築物は、より人間界に近い物質的なものに見えますが、ウェイト氏はそうではないと考えているようです。

I see nothing to warrant Papus in supposing that it is literally the fall of Adam, but there is more in favour of his alternative--that it signifies the materialization of the spiritual word.
私は、それは文字通りのアダムの落下(堕落)であるとするパピュスの推測を証明するものは知らない。しかし、彼の代案をより有利とするものがある。それは、霊的な言葉の出現を意味するということである。

 パピュス氏は、著書『ボヘミアンのタロット』の中で、「16番のカードは、アダムの物質的な落下を表す」と書いていて、精神界であるエデンの園から、この地上界に追放されたアダムとイブであると言っています。
 ウェイト氏は、その意見には全面的には賛同しないけれども、これに近い考えのようです。

 霊的な言葉の出現というのは、パピュス氏が、このカードをヘブライ文字のヴァウ(釘) を降らせたデザインにしていることです。
 パピュス氏の『ボヘミアンのタロット』(オズワルト・ウィルト版)では、塔が破壊される時に、物理的な破片と一緒に、精神的な言葉が出現しています。


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ボヘミアンのタロット』より「16:塔」

 ウェイト氏は、パピュスとは違って、ヘブライ文字のヴァウではなく、聖四文字のヨッド(手)を降らせていますので、さらに神の関与というか祝福が深まっているようです。
 結局のところ、これは神のもたらす災難ではなく、神の祝福であると言いたそうです。

The bibliographer Christian imagines that it is the downfall of the mind, seeking to penetrate the mystery of God.
書誌学者のクリスチャンは、それは「神」の神秘に侵入して探求しようとした精神の破滅であると想像している。

 ポール・クリスチャン氏は、著書『魔術の歴史と実践』の中で、神界では「the punishment of pride/高慢に対する懲罰」、知識界では「the downfall of the Spirit that attempts to discover the mystery of God/神の神秘を発見することを試みる魂の墜落」、物理界では「reversals of fortune/運命の逆転」と述べています。

 いつものことながら、ウェイト氏は、そうではないと言いたいわけですよね。

I agree rather with Grand Orient that it is the ruin of the House of We, when evil has prevailed therein, and above all that it is the rending of a House of Doctrine.
私はむしろ、悪がその中に流行した時の「我々の家」の崩壊であり、なによりも、「教義の家」の分裂であるとするグランド・オリエントに同意する。

 「Grand Orient/グランド・オリエント」は、ウェイト氏のペンネームです。自演乙です。(笑)
 ちなみに、この"House of"という言い回しは、ウェイト氏の「Secret tradition in Freemasonry」にも、たくさん出てきます。

 「House of We/我々の家」というのは、おそらく個々の人間の魂であり、「House of Doctrine/教義の家」というのは、おそらく宗教団体の集団的な信仰の精神みたいな感じです。
 そして、最初は純粋な「善」の気持ちで建てられた家が、次第にその中に「悪」が入り込んで、変質してしまったということなのでしょう。

I understand that the reference is, however, to a House of Falsehood.
とはいえ、私は、それが「欺瞞の家」を指していることを理解している。

 神のための「我々の家」や「教義の家」がいつのまにか腐敗し、自己満足のための「欺瞞の家」と化してしまったということですね。
 まあ、腐ってしまった家は、取り壊して建て替えるというのが基本です。

It illustrates also in the most comprehensive way the old truth that "except the Lord build the house, they labour in vain that build it."
それはまた、「主が家を建てるのでなければ、建てる者の働きはむなしい。」という古い真実を最も包括的な方法で図解している。

 この言葉は、『旧約聖書:詩篇』127:1の「Except the LORD build the house, they labour in vain that build it: except the LORD keep the city, the watchman waketh but in vain./主が家を建てるのでなければ、建てる者の働きはむなしい。主が町を守るのでなければ、守る者の見張りはむなしい。」(King James version/新改訳)の部分です。

 これが意味するものは、人が己の目的で作ったものには魂は無く、神の導きにより作られたものにこそ魂が宿る、という感じでしょうか。
 天の運命や他人の忠告に従わず、自己の欲望のみで作られたものは、滅びるのが早いということですかね。

There is a sense in which the catastrophe is a reflection from the previous card, but not on the side of the symbolism which I have tried to indicate therein.
以前のカードからの影響で、このカードにも大災害という感覚があるが、私がその中に示そうとしたシンボル体系の側には無い。

 今まで言われていた、物理界における災害、事故、不幸、失敗などといったものは、このカードには直接関係しないということです。
 大アルカナは、基本的に、物理界ではなく、天上界で作用するものですからね。

It is more correctly a question of analogy; one is concerned with the fall into the material and animal state, while the other signifies destruction on the intellectual side.
より正確に言えば、類推の問題である。一方は物質的および肉体的な状態への落下に関係し、もう一方は知的な側における破壊を意味する。

 ウェイト氏は、「塔からの落下」の類推される意味として、以下の2つのことを挙げています。
 一つは、上位の精神世界から、下位の物質的・肉体的世界へと降りてくること。
 そして、もう一つは、上位の精神世界にあるものの破壊。

 この類推は、アダムとイブの「エデンの園からの追放」のイメージがあるようです。ウェイト氏は、どちらかというと、パピュス氏に近い考えのようですね。

The Tower has been spoken of as the chastisement of pride and the intellect overwhelmed in the attempt to penetrate the Mystery of God; but in neither case do these explanations account for the two persons who are the living sufferers.
「塔」は、高慢に対する懲罰と、「神の神秘」に侵入しようと試みて打ちのめされた知性として述べられている。しかし、どちらの場合でも、これらの説明は生きて苦しむ者である2人の原因を説明できない。

 ここは、先に説明したポール・クリスチャン氏の「神界」と「知識界」の説に対しての反論です。
 大アルカナのような神秘的なカードの意味は、そんな低俗で道徳的な話ではなく、一般人でも見ればわかるようなものではないと言いたいわけですよね。

 大アルカナは、基本的には「運命」を表します。つまり、世俗的な「善悪」を超越した解釈が必要になります。
 人間である限り、どんな善人であっても、「悪」や「墜落」からは逃れられない。そういう運命だということです。

The one is the literal word made void and the other its false interpretation.
一方は文字通りの言葉は無効であり、もう片方は誤った解釈である。

 いつものように、ポール・クリスチャン氏の全否定ですね。

In yet a deeper sense, it may signify also the end of a dispensation, but there is no possibility here for the consideration of this involved question.
けれども、より深い意味においては、それは分配の終わりを意味するかもしれない。しかし、この混乱した論点を考慮したとしても、ここにはそういう可能性は全くない。

 「end of a dispensation/分配の終わり」というのは、おそらく、神からの施しが終わることを表しています。
 これは、エデンの園を追放されたアダムとイブが、神の保護から独立して生活していくということを表しており、ウェイト氏はそういう意味のことをポール・クリスチャンが考えているのであれば、かなり深い読みをしているから、アンタのことを褒めてもいいよと言いたいわけですが・・・・

 で結局、ウェイト氏が最後に言いたいことって、「ポール・クリスチャンって、やっぱり軽薄でアホだ!」ということなんですよね。(笑)

 ちなみに、ウェイト氏は、この塔を「魂の幽閉」として捉えているようです。
 塔に閉じ込められた、純真無垢なお姫様を救い出す王子様のシーンまで考えていたのかもしれません。
 その純粋な心を持つお姫様のイメージが、次の「17:星」のカードだったのかもしれませんね。


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